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電力の小売営業に関する指針
平成28年1月制定
平成30年12月27日最終改定
経済産業省
電力の小売営業に関する指針
目 次
序 電力の小売営業に関する指針の必要性等...................................... 1
(1) 本指針の必要性及び構成 .............................................. 1
(2) 本指針を遵守すべき事業者 ............................................ 2
(3) 本指針で用いる用語の定義 ............................................ 2
1 需要家への適切な情報提供の観点から望ましい行為及び問題となる行為 ......... 4
(1) 一般的な情報提供 .................................................... 4
ア問題となる行為 ...................................................... 4
ⅰ)料金請求の根拠を示さないこと ..................................... 4
ⅱ)需要家の誤解を招く情報提供 ....................................... 4
イ 望ましい行為 ........................................................ 4
ⅰ)標準メニューの公表 ............................................... 4
ⅱ)平均的な月額料金例の公表 ......................................... 5
ⅲ)価格比較サイト等における小売電気事業者等以外の者による需要家の誤解を招く情報提供の訂正等 ...5
ⅳ)電気料金に工事費等が含まれている場合の請求書等への内訳明記 ....... 5
ⅴ)業務改善命令を受けた事実の公表 ................................... 6
(2) 契約に先だって行う説明や契約締結前・締結後交付書面の交付 ............ 6
ア問題となる行為 ...................................................... 6
ⅰ)供給条件の説明義務及び書面交付義務の不遵守 ....................... 6
ⅱ)セット販売時の必要な説明及び契約締結前・締結後交付書面への記載の欠如 6
イ 望ましい行為等 ...................................................... 8
ⅰ)需要家が新たな需要場所に入居する際の小売供給契約の申込みの対応 ... 8
ⅱ)需要家が無契約状態となる場合に関する手続等の説明 ................. 8
ⅲ)スイッチングの際の旧小売供給契約に関する解除及び違約金等の説明 ... 9
ⅳ)高圧一括受電や需要家代理モデルにおける説明等 ..................... 9
ⅴ)セット販売に係る複数の契約の契約期間が異なる場合における解除の条件
の説明等 ........................................................... 10
(3) 電源構成等の適切な開示の方法 ....................................... 11
ア電源構成等の開示に関する考え方 ..................................... 11
イ望ましい行為及び電源構成等の算定や開示を行う場合の具体例 ........... 11
ⅰ)電源構成の開示 .................................................. 11
ⅱ)算定や開示を行う場合の具体例 .................................... 12
ⅲ)望ましい算定や開示の方法 ........................................ 15
ウ問題となる行為 ..................................................... 17
ⅰ)一般的に問題となるもの .......................................... 17
ⅱ)電源構成等を小売供給の特性とする場合においてのみ問題となるもの .. 23
ⅲ)FIT電気を販売しようとする場合においてその説明を行うときにのみ問題となるもの ..... 24
ⅳ)非化石証書を使用した場合においてのみ問題となるもの .............. 27
ⅴ)「〇〇地域産電力」や「地産地消」等、発電所の立地地域を小売供給の特性とする場合においてのみ問題となるもの .... 27
2 営業・契約形態の適正化の観点から問題となる行為等 ........................ 29
(1) 電気事業法上問題となる営業・契約形態 ............................... 29
ア問題となる営業・契約形態 ........................................... 29
イ既に締結されている問題となる契約への配慮 ........................... 30
ウ例外的に許容される一定の特別な関係 ................................. 30
(2) 小売電気事業者の媒介・取次ぎ・代理における問題となる行為及び望ましい行為 31
ア小売電気事業者の媒介・取次ぎ・代理の電気事業法上の位置づけ ......... 31
イ問題となる行為 ..................................................... 32ⅰ)
小売電気事業者が媒介・取次・代理業者を利用する場合の営業活動の在り方 32
ⅱ)媒介・取次・代理業者の営業活動の在り方 .......................... 33
ⅲ)取次ぎを行う際に遵守すべき事項 .................................. 34
ウ望ましい行為 ....................................................... 34
(3) 高圧一括受電や需要家代理モデルにおける望ましい行為 ................. 35
(4) 小売電気事業者による業務委託における問題となる行為 ................. 36
3 小売供給契約の内容の適正化の観点から問題となる行為及び望ましい行為 ...... 38
(1) 不明確な電気料金の算出方法 ......................................... 38
(2) 小売供給契約の解除における問題となる行為及び望ましい行為 ........... 38
ア問題となる行為 ..................................................... 38
ⅰ)小売供給契約の解除を著しく制約する内容の契約条項を設けること .... 38
ⅱ)小売供給契約の解除を著しく制約する行為をすること ................ 38
イ望ましい行為 ....................................................... 39
(3) 競合相手を市場から退出させる目的での不当に安い価格での小売供給 ..... 39
4 苦情・問合せへの対応の適正化の観点から問題となる行為及び望ましい行為 .... 40
(1) 苦情・問合せへの対応に関し問題となる行為 ........................... 40
(2) 停電に関する問合せ対応に関して問題となる行為及び望ましい行為 ....... 40
ア問題となる行為 ..................................................... 40
イ望ましい行為 ....................................................... 40
ⅰ)送配電要因であることが明らかな停電への対応 ...................... 40
ⅱ)原因が不明な停電への適切な対応 .................................. 40
5 小売供給契約の解除手続の適正化の観点から問題となる行為及び望ましい行為 .. 42
(1) 需要家からの小売供給契約の解除時の手続における問題となる行為及び望ましい
行為 ............................................................... 42
ア問題となる行為 ..................................................... 42
ⅰ)本人確認を行わないこと .......................................... 42
ⅱ)解除に速やかに対応しないこと .................................... 42
ⅲ)スイッチング期間において取戻し営業行為を行うこと ................ 43
ⅳ)需要家からのクーリング・オフについて適切な対応を怠ること ........ 43
イ望ましい行為 ....................................................... 44
(2)小売電気事業者からの小売供給契約の解除時の手続 ..................... 45
(3)一般送配電事業者による託送供給契約の解除時の手続 ................... 46
6 本指針の適用 ............................................................. 47
【参考:供給条件の説明義務・書面交付義務の解説】 ............................ 48
1 供給条件の説明 ........................................................... 48
(1) 供給条件の説明の意義 ............................................... 48
(2) 供給条件の説明の程度及び方法 ....................................... 48
(3) 説明すべき事項 ..................................................... 49
ア原則 ............................................................... 49
イ説明事項の一部省略が認められる場合 ................................. 51
ⅰ)契約の更新の場合 ................................................ 51
ⅱ)軽微な変更以外の契約の変更の場合 ................................ 51
ⅲ)契約の軽微な変更の場合 .......................................... 51
ⅳ)説明事項の一部省略が認められない場合 ............................ 52
2 契約締結前の書面交付義務 ................................................. 52
(1) 契約締結前の書面交付義務の意義 ..................................... 52
(2) 遵守すべきルール ................................................... 52
ア契約締結前交付書面において記載が必要な事項及び記載の方法 ........... 52
ⅰ)原則 ............................................................ 53
ⅱ)契約締結前交付書面の記載事項の一部省略が認められる場合 .......... 53
イ契約締結前の書面交付義務の例外的場合 ............................... 53
ⅰ)電話による説明を行う場合 ........................................ 53
ⅱ)契約の更新及び契約の軽微な変更の場合 ............................ 53
ウ契約締結前交付書面に代わる情報通信技術を利用する方法 ............... 54
ⅰ)需要家の承諾を得る方法 .......................................... 54
ⅱ)具体的な提供方法 ................................................ 54
3 契約締結後の書面交付義務 ................................................. 55
(1) 契約締結後の書面交付義務の意義 ..................................... 55
(2) 遵守すべきルール ................................................... 56
ア契約締結後交付書面において記載が必要な事項及び記載の方法 ........... 56
ⅰ)原則 ............................................................ 56
ⅱ)契約締結後交付書面の記載事項の一部省略が認められる場合 .......... 56
イ契約締結後の書面交付義務の例外的場合 ............................... 57
ウ契約締結後交付書面に代わる情報通信技術を利用する方法 ............... 57
ⅰ)需要家の承諾を得る方法 .......................................... 57
ⅱ)具体的な提供方法 ................................................ 58
序 電力の小売営業に関する指針の必要性等
(1) 本指針の必要性及び構成
平成25年4月2日に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」において、① 広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保という3段階からなる電気事業改革の全体像が示された。その後、第1弾、第2弾、第3弾の実施に必要な措置を定めた改正電気事業法が、それぞれ、第185回臨時国会、第186回通常国会、第189回通常国会において成立した。また、平成26年4月に政府は第4次エネルギー基本計画を策定し、平成27年12月には国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され「パリ協定」が採択されている。
平成28年4月1日、第2弾の改正電気事業法が施行され、従来は基本的に特別高圧・高圧部門のみ自由化されていた電気の小売業への参入が、低圧部門を含めて全面自由化されることとなった。
本指針は、小売の全面自由化に伴い、様々な事業者が電気事業に参入することを踏まえ、関係事業者が電気事業法(昭和39年法律第170号)及びその関係法令を遵守するための指針を示すとともに、関係事業者による自主的な取組を促す指針を示すものであり、これによって、電気の需要家の保護の充実を図り、需要家が安心して電気の供給を受けられるようにするとともに、電気事業の健全な発達に資することを目的とするものである。
具体的には、本指針は、①需要家への適切な情報提供、②営業・契約形態の適正化、③ 契約内容の適正化、④苦情・問合せへの対応の適正化、⑤契約の解除手続の適正化の各項目について、原則として、需要家の利益の保護や電気事業の健全な発達を図る上で望ましい行為や、電気事業法上問題となる行為(業務改善命令又は業務改善勧告が発動される原因となり得る行為)を示すとともに、一定の場合には電気事業法上問題とならない旨を例示する。また、小売電気事業者に課される供給条件の説明義務や契約締結前・締結後の書面交付義務に関する電気事業法の関連法令の詳細な解説を、後述の1(2)ア及び【参考
:供給条件の説明義務・書面交付義務の解説】に示している。
なお、本指針のルール等が関係する具体的なケースについては取引の実態を踏まえて、個別の判断が求められるものであり、これらを網羅的にあらかじめ明らかにすることは困難である。したがって、問題や紛争が生じた場合に、本指針の趣旨・内容を勘案して個々の事案に応じて対応し、その判断の積み重ねが本指針の内容をより一層明確にしていくことになると考えられる。また、小売の全面自由化後においても電気の供給に関するサービスの多様化・複雑化によりトラブルの内容や実態、競争環境も変化していく可能性がある。
本指針についても、こうした状況を反映する必要があることから、今後の電気の小売業の環境変化に応じて適時適切に見直しを行っていくこととする。
(2) 本指針を遵守すべき事業者
本指針を遵守すべき主たる関係事業者は、小売電気事業者及びその媒介・取次・代理業者である[1]。なお、登録特定送配電事業者及びその媒介・取次・代理業者については、本指針では記載していないが、その小売供給及びその小売供給に関する契約の締結の媒介等に関しては、本指針を同様に遵守することが求められる。
(3) 本指針で用いる用語の定義
以下の各用語は、本指針において以下に定める意味を有する。
・ 本指針:電力の小売営業に関する指針
・ 施行規則:電気事業法施行規則(平成7年通商産業省令第77号)
・ 媒介等:媒介、取次ぎ又は代理[2]
・ 媒介業者:小売供給契約の締結の媒介を業として行う者
・ 取次業者:小売供給契約の締結の取次ぎを業として行う者
・ 代理業者:小売供給契約の締結の代理を業として行う者
・ 媒介・取次・代理業者: 媒介業者、取次業者又は代理業者
・ 小売電気事業者等:小売電気事業者及び媒介・取次・代理業者
・ 料金その他の供給条件:小売供給に係る料金(当該料金額の算出方法を含む)、料金の支払方法、供給電圧その他の電気事業法第2条の13第1項に基づき小売電気事業者等による説明が必要とされる小売供給に係る供給条件
・違約金等:需要家からの申出による小売供給契約の変更又は解除に伴う違約金その他の需要家の負担となるもの[3]
・ 業務改善命令:電気事業法に基づく経済産業大臣の業務改善命令(電気事業法第2条の
17等)
・ 業務改善勧告:電気事業法第66条の12第1項に基づく電力・ガス取引監視等委員会の電気事業者に対する勧告
・ 業務改善命令等:業務改善命令又は業務改善勧告
・ 契約締結前交付書面:電気事業法第2条の13第2項に基づき小売電気事業者等による交付が必要とされる書面
・ 契約締結後交付書面:電気事業法第2条の14第1項に基づき小売電気事業者等による交付が必要とされる書面
・ 契約締結前・締結後交付書面:契約締結前交付書面及び契約締結後交付書面
・ セット販売:電気と他の商品・役務をセットで契約した場合に、料金の割引やキャッシュバック等が受けられるとする販売
・ セット割引等:セット販売によって得られる料金の割引やキャッシュバック等
・ 電源構成:小売電気事業者が小売供給を行うために発電・調達する電気の電力量に係る電源種の構成
・ スイッチング:需要家が自らに対して小売供給を行う小売電気事業者を他の小売電気事業者に切り替えること
1 需要家への適切な情報提供の観点から望ましい行為及び問題となる行為
(1) 一般的な情報提供
ア 問題となる行為
ⅰ) 料金請求の根拠を示さないこと
料金請求の根拠となる使用電力量等の情報については、原則として需要家が自ら把握することは困難である。このため、請求された料金が正しいかどうかを需要家が判断できるようにするためには、小売電気事業者が当該情報を需要家に示す必要がある。
このため、小売電気事業者が、料金請求の根拠となる使用電力量等の情報を請求書への記載やウェブサイトでの閲覧を可能とすることなどの方法により需要家に示さないことは問題となる。
なお、取次業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者
による指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
ⅱ) 需要家の誤解を招く情報提供
小売電気事業者が、「当社の電気は停電しにくい」など、需要家の誤解を招く情報提供によって自己のサービスに誘導しようとすることは、需要家の誤認に基づく選択を招きかねず、また、小売電気事業者間の公正な競争を阻害するおそれがあるため、問題となる。
なお、媒介・取次・代理業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
イ 望ましい行為
ⅰ) 標準メニューの公表
小売電気事業者が自ら、又はその媒介・取次・代理業者を通じて、低圧需要家向けの定型的なメニューを標準メニューとして広く一般に公表した上で、これに従って、同じ需要特性を持つ需要家群ごとに、その利用形態に応じた料金を適用することは望ましい。これにより、需要家が料金水準の適切性を判断しやすくなることが期待される。
なお、需要家の需要形態等に応じて様々なメニューが設定されることが想定されるため、標準メニューは各小売電気事業者に1つと限られるものではない。できる限り、需要家に分かりやすいメニューを作成するとともに、定型化された契約条件の下で広く需要家に提供されているメニューは公表されることが望ましい。標準メニューを公表した場合でも、期間限定の割引料金を適用するなど、公表されているメニュー以外の供給条件による販売を行うことも許容される。
ⅱ) 平均的な月額料金例の公表
小売電気事業者が自ら、又はその媒介・取次・代理業者を通じて、低圧需要家向けに平均的な電力使用量における月額料金例を公表することは、需要家が料金水準の適切性を判断することに資するため望ましい。
ⅲ) 価格比較サイト等における小売電気事業者等以外の者による需要家の誤解を招く情報提供の訂正等
小売供給に関する情報を扱う価格比較サイトなどで、小売電気事業者等以外の第三者によって虚偽又は需要家の誤解を招くなど問題になり得る小売電気事業者に係る情報提供が行われていることを当該小売電気事業者が把握した場合には、当該小売電気事業者は、速やかに当該情報の訂正を働きかけることが需要家の混乱や誤解を防止する観点から望ましい。
ただし、当該小売電気事業者が、自らの広告媒体として用いている価格比較サイトなど小売供給に関する情報提供を行う媒体において、上記のような虚偽又は需要家の誤解を招く情報提供を把握したにもかかわらず、その状態を長期間にわたり不当に放置し、働きかけを行わない場合には、電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあり、問題となる。
ⅳ) 電気料金に工事費等が含まれている場合の請求書等への内訳明記
小売全面自由化後、小売電気事業者が締結する個別の小売供給契約において、小売電気事業者が一般送配電事業者に対して託送供給等約款に基づき支払った電気計器及び工事に関する費用負担を当該小売供給に係る料金に含めて回収することが考えられる4。
このような場合、小売電気事業者は、電気料金の透明性の確保の観点から、需要家への請求書、領収書等に当該工事費等の相当額を記載することが望ましい。
4このような小売供給契約を締結しようとする際に小売電気事業者が供給条件として説明すべき事項については、後述の【参考:供給条件の説明義務・書面交付義務の解説】の1(3)アを参照されたい(特に施行規則第
3条の12第1項第8号及び第14号に関する箇所)。
ⅴ) 業務改善命令を受けた事実の公表
小売電気事業者が経済産業大臣からの業務改善命令(電気事業法第2条の17)を受けた場合、当該事実を需要家が把握できるようにすることが需要家保護の観点から適当であることから、小売電気事業者自身がその事実を公表することが望ましい。
(2) 契約に先だって行う説明や契約締結前・締結後交付書面の交付
ア 問題となる行為
ⅰ) 供給条件の説明義務及び書面交付義務の不遵守
電気事業法では、小売電気事業者等は、需要家と小売供給契約の締結又は媒介等をしようとするときは、料金その他の供給条件について、需要家に対し説明することが義務付けられている(電気事業法第2条の13第1項)。また、当該説明をするときは、需要家に対し、料金その他の供給条件を記載した契約締結前交付書面を交付しなければならない(電気事業法第2条の13第2項及び第3項)。
さらに、小売電気事業者等は、需要家と小売供給契約を締結したときは、遅滞なく、小売電気事業者等の氏名及び住所、契約年月日、料金その他の供給条件を記載した契約締結後交付書面を交付しなければならない(電気事業法第2条の14)。
これらの説明義務及び書面交付義務は、需要家に対して料金その他の供給条件に係る十分な説明が行われないことに起因するトラブルの発生を未然に防止するとともに、需要家が料金その他の供給条件を十分に理解した上で小売供給を受けることができる環境を整備する趣旨から設けられたものである。
小売電気事業者等が、これらの説明義務及び契約締結前の書面交付義務に違反することは問題となる。
なお、小売電気事業者等による供給条件の説明の方法や説明すべき事項、契約締結前・締結後交付書面において記載が必要な事項やその一部省略が認められる場合、情報通信技術を利用する方法による提供が認められる場合などの詳細については、
後述の【参考:供給条件の説明義務・書面交付義務の解説】を参照されたい。
ⅱ) セット販売時の必要な説明及び契約締結前・締結後交付書面への記載の欠如
小売の全面自由化後は、電気と他の商品・役務のセット販売を行う事業者など、多様なサービスを提供する事業者が現れることが想定される。
① セット販売時の料金及びセット割引等の表示について小売電気事業者等は、需要家と小売供給契約を締結しようとする際に、「当該小売供給に係る料金(当該料金の額の算出方法を含む。)」を説明し、これを契約締結前・締結後交付書面に記載しなければならない(電気事業法第2条の13及び第
2条の14並びに施行規則第3条の12第1項第7号及び第8項並びに第3条の13第2項第3号)。このため、電気と他の商品・役務のセット販売を行う場合も、電気料金の額の算出方法については明示する必要がある。これに対して、セット割引等の電気料金への配分金額については、これを常に明示させるとすれば、「電気と他の商品・役務のセットで毎月●●円割引」といった料金メニューの設定が困難となり、自由な商品開発の妨げになると考えられる。このため、セット割引等の電
気料金への配分金額については、これを明示する必要まではない。なお、この場合、小売電気事業者が経済産業大臣等に対し電気関係報告規則(昭和40年通商産業省令第54号)[4]に基づき定期的に行う報告においては、電気料金とそれ以外の商品・役務提供の対価に割引額を振り分けた上で、電気料金の売上高を報告する必要がある点には留意が必要である。
② ①以外のセット販売時に求められる説明及び契約締結前・締結後交付書面の記載
セット販売においては、商品・役務ごとに契約先となる事業者が異なることを需要家が十分に理解していない、知らない間に他の商品・役務も契約したことになっていた、広告どおりのキャッシュバックが支払われない(キャッシュバックを行う責任主体が誰かが曖昧である)などの問題が生じる懸念がある。
需要家保護という説明義務・書面交付義務の趣旨からすれば、小売電気事業者等は、セット販売を行う場合には、以下の説明や書面交付を行うことが求められ、小売電気事業者等が、このような説明・書面交付を行わないことは問題となる。
(ア) セット販売される商品・役務と電気の小売供給とで契約先が異なるときはその旨を適切に説明すること
(イ) どのような条件で料金割引等が適用されるのか(どの商品・役務とセットで購入することで料金割引が適用されるのか、セット販売されるうちの一部の商品・役務に係る契約を解除した場合に適用が無くなるのか等)を需要家に対し分かりやすく説明すること
(ウ) キャッシュバック(現金還元)等を行うときは、誰が責任を持ってどのような手続でキャッシュバック等を行うのかを明示すること
(エ) 契約締結前・締結後交付書面に上記各事項を記載すること
イ 望ましい行為等
ⅰ) 需要家が新たな需要場所に入居する際の小売供給契約の申込みの対応
小売の全面自由化後、需要家は新たな入居先での電気の使用を開始する場合には、当該開始前に小売電気事業者と小売供給契約を結ぶことが必要となるのが原則である。仮に、需要家が新たな入居先で電気の使用を開始した後に小売供給契約を申し込むケースが発生したとしても、電気の使用を開始した日まで小売供給契約の効力を遡らせることで、無契約状態とならないようにすることが望まれる。小売電気事業者等においては、需要家の理解不足等により、電気の使用を開始した日まで効力を遡る契約が締結されない事態が生じないように説明することが望ましい。
なお、小売電気事業者が、需要家が無契約状態で電気を使用している事実を知りつつ、需要家が実際の電気の使用開始日を偽ることを助長するような行為を行うことは、電気事業の健全な発達に支障が生じるおそれがあることから、問題となる。なお、媒介・取次・代理業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
ⅱ) 需要家が無契約状態となる場合に関する手続等の説明
後述の5ア(1)ⅳ)及び5(2)のとおり、小売供給契約について需要家がクーリング・オフをした場合や小売電気事業者から解除した場合などにおいて、需要家は無契約状態となり供給が停止されるおそれがあるが、そのことを事前及び事後に需要家が知る機会を確保することが重要である。
そこで、小売電気事業者等は、需要家と小売供給契約の締結又は媒介等をしようとするとき及び需要家から小売供給契約についてクーリング・オフの通知を受けたときは、「小売供給契約について需要家がクーリング・オフをした場合や小売電気事業者から解除された場合などには、需要家が無契約状態となり、電気の供給が停止されるおそれがあること、そのため、他の小売電気事業者と小売供給契約を締結するか、最終保障供給(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給)を申し込む必要があること」を需要家に対して説明することが望ましい。また、クーリング・オフや小売電気事業者からの契約解除などにより無契約状態で電気を使用している需要家から申込みを受けたことを認識した小売電気事業者等は、当該無契約状態での電気の使用[5]を解消するため、「無契約状態での電気の使用を解消するためには、クーリング・オフ行使日や小売供給契約の解除日等、無契約状態での電気の使用を開始した日から小売供給契約締結日までの期間について、自己との小売供給契約の効力を遡らせるか、最終保障供給(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給)を受けたとするかのどちらかを選択する必要がある」旨を需要家に対して説明することその他必要に応じて適切な情報提供をすることが望ましい。
なお、小売電気事業者が、需要家が無契約状態で電気を使用している事実を知りつつ、需要家が実際の電気の使用開始日を偽ることを助長するような行為を行うことが問題となることは前述の1(2)イⅰ)と同様である。
ⅲ) スイッチングの際の旧小売供給契約に関する解除及び違約金等の説明
需要家がスイッチングをする場合、切替え前の小売電気事業者との間の小売供給契約(以下「旧小売供給契約」という。)の解除が必要となり、また当該解除に伴い違約金等が発生することがあり得るが、需要家がこれらを認識しないままスイッチングをしてしまう事態が想定される。このため、切替え後の小売電気事業者は、当該需要家に対し、供給条件の説明の際、旧小売供給契約の解除が必要となること及び当該解除の条件によっては、解除により違約金等の発生等の需要家の負担が生じる可能性があることを説明することが望ましい。これにより、需要家が旧小売供給契約の解除の必要性及び解除に伴う負担についても十分認識した上でスイッチングをするかどうかを判断できるようになることが期待される。
また、オール電化等の選択により他のエネルギーから電力へエネルギー源を切替える場合などには、既存設備の撤去等が必要になる可能性がある。こうした切替手続が円滑に進むことを確保する観点から、切替え先の小売電気事業者が需要家に対して、上記同様の説明に加え、切替え前の事業者との間の他のエネルギーの供給契約上の解除の条件によっては、一定期間前に当該切替え前の事業者に対して解除を通知する必要が生じる可能性がある旨を説明することが望ましい。
ⅳ) 高圧一括受電や需要家代理モデルにおける説明等
後述の2(3)のとおり、高圧一括受電による一の需要場所内での電気のやりとりは、電気事業法上の規制の対象外であるが、最終的な電気の使用者の保護の観点から、高圧一括受電事業者は、小売電気事業者に求められる需要家保護策と同等の措置を適切に行うことが望ましい。このため、高圧一括受電事業者は、最終的な電気の使用を希望する者から高圧一括受電による一の需要場所内での電気の提供サービスの利用申込みを受けた場合には、当該者に対して小売電気事業者に求められるものと同等の説明・書面交付を行うことが望ましい。これに加えて、管理組合による集会において高圧一括受電サービスの導入に係る決議を行うために住民説明会等が行われる場合には、高圧一括受電事業者は、その際にも十分な説明を行うことが望ましい。
また、後述の2(3)のとおり、需要家代理モデルについても、電気事業法上の規制の対象外であるが、需要家の保護の観点からは、需要家代理モデルにおいても、需要家と代理契約を締結する代理事業者が、需要家に対し、小売電気事業者に求められるものと同等の説明・書面交付を行うことが望ましい。これにより、需要家に対して料金その他の供給条件に係る十分な説明が行われないことに起因するトラブルの発生を未然に防止するとともに、需要家が料金その他の供給条件を十分に理解
した上で小売供給を受けることができる環境が整備されることが期待される。
ⅴ) セット販売に係る複数の契約の契約期間が異なる場合における解除の条件の説明等
電気と継続的に提供される他の商品・役務のセット販売がされた場合において、需要家が、当該セット販売に係る複数の契約を同時に解除し、別の小売電気事業者等との契約へ切り替える場合も想定される。この場合、当該セット販売に係る各契約の契約期間が個別に設定されていると、複数の契約の更新時期が重なり合わず、このような複数の契約を同時に解除すると常に違約金等が発生する事態が生じ得る
(下図参照)。
このようなセット販売に係る契約を締結しようとする場合、小売電気事業者等は、小売供給契約の解除時の違約金等に関する説明に加えて(施行規則第3条の12第1項第20号)、需要家に対し、当該セット販売に係る複数の契約を同時に解除す
る場合には常に違約金等が発生することについて、適切に説明することが望ましい。
また、上記のような事例においては、セット販売に係る複数の契約を同時に解除する方法によるスイッチングを事実上抑制する効果がある。このため、小売電気事業者等は、セット販売を新規に行う場合、当該セット販売に係る各契約の契約期間を同じ期間に設定することや、各契約のうち最も長期の契約期間の満了時には当該セット販売に係る複数の契約を違約金等の負担なく同時に解除できるようにすることが望ましい(下図参照)。
(3) 電源構成等の適切な開示の方法
ア 電源構成等の開示に関する考え方
小売電気事業者が電源構成等(電源構成のほか、発電所の立地地域等を含む。以下同じ。)の情報を開示した場合には、需要家が小売電気事業者や電気料金メニューを選択するに当たって、価格に加え、電源構成など他の要素も比較した上で選択することが可能となる。
また、電源構成等の開示が行われると、価格以外の特性を差別化要素とした競争が生じ、より競争的な電力市場の実現に資することが期待される。さらに、平成30年7月に策定された「エネルギー基本計画」においては、需要家が多様な選択肢から自由にエネルギー源を選ぶことで、エネルギー供給構造がより効率化されることが期待されるとともに、供給側においても供給構造の安定性がより効果的に発揮されることにつながるという考え方が示されている。これらを踏まえると、供給側が電源構成等の情報を開示し、需要家が小売電気事業者の選択を通じて積極的に電気の選択を行うことには一定の意義があると考えられる。
他方、電源構成等の情報については、需要家の誤認を招く方法で開示される場合や明確な根拠なく算定される場合には、需要家の利益を損ねるとともに、事業者間の競争条件を歪める可能性がある。このため、本指針において問題となる算定や開示の方法などについて示
すことで、電源構成等の適正な開示を図り需要家による選択を確保することとする。
イ 望ましい行為及び電源構成等の算定や開示を行う場合の具体例
ⅰ) 電源構成の開示
小売の全面自由化後の電力市場においては、需要家が自ら選択を行い、そのニーズに応じて小売電気事業者が必要な情報を開示するといった取組が、需要側及び供給側の双方で進んでいくことが期待される。電源構成の開示については、①小規模な事業者にとって負担となること、②小売電気事業者が開示するためには発電事業者から小売電気事業者に対して電源種別に関する情報提供が必要となることなどについて留意が必要であるが、供給側が電源構成の情報を開示し、需要家が小売電気事業者の選択を通じて積極的に電気の選択を行うことには意義があることから、需要側による選択の取組の成熟と併せ、小売電気事業者が、後述の1(3)イⅱ)の「望ましい算定や開示の方法」や1(3)ウの「問題となる行為」の記述を踏まえつつ、ホームページやパンフレット、チラシ等を通じて需要家に対する電源構成の情報の開示を行うこと(その際には、需要家にとって分かりやすい形で掲載・記載すること)が望ましい。
また、その際には、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)に基づく二酸化炭素排出係数(調整後排出係数[6])を併せて記載することが望ましい。
ⅱ) 算定や開示を行う場合の具体例
後述の1(3)イⅲ)及び1(3)ウで述べる、電源構成等の算定や開示に関する望ましい方法及び問題となる方法を踏まえ、電源構成を算定し、開示する場合の具体例を以下に示す。
いずれの場合においても、注釈については、電源構成の表示と近接した箇所に記載し、かつ見やすい文字の大きさにすることが望ましい。
① 電源特定メニューによる電気の販売を行わない場合
② 電源特定メニューを提供する場合(電源構成として、電源特定メニューに係る販売電力量を控除して表示する場合)
③ 電源特定メニューを提供する場合(電源構成として、電源特定メニューに係る販売電力量を控除せずに表示する場合)
後述の1(3)ウⅰ)⑨のとおり、電源特定メニューを提供する小売電気事業者が、電源構成の開示に際して当該電源特定メニューの販売電力量を控除しない場合に、当該電源特定メニューでの販売電力量が含まれることを明示しないことは問題となる。
ⅲ) 望ましい算定や開示の方法
① 開示対象の情報の算定の期間
小売電気事業者が電源構成等を開示する場合(電源構成等を小売供給の特性とする場合を除く。)は、前年度実績値(前年度実績値の数値が確定する前においては前々年度実績値。以下同じ。)又は当年度計画値として算定することが望ましい。また、実績値がない新規参入の小売電気事業者の場合には、供給開始後数ヶ月間の直近実績値をもって開示することもあり得る。
なお、「小売供給の特性とする場合」とは、ある特性が小売供給の供給条件とされている場合を意味する。典型的には、電源特定メニュー(「水力電源100%」等、特定の電源種で発電された電気を供給することを供給条件とするメニューのほか、特定の電源種のみでない場合であっても、「再生可能エネルギーを一定割合以上含む電源構成で供給するメニュー」や「水力と太陽光の合計を一定割合以上とする電源構成で供給するメニュー」等、小売電気事業者が供給する電気が特定の電源比率が一定の水準以上の電気であること等を供給条件とするメニューがこれに含まれる。)がこれに該当する。小売電気事業者が電源構成等を小売供給の特性とする場合には、後述の1(3)ウⅱ)①のとおり、過去の電源構成等の実績値などをもって電源の割合を示すことは適当ではなく、当年度計画値に基づき電源の割合を示すことが求められる。
また、小売電気事業者が電源構成等を開示する場合(電源構成等を小売供給の特性とする場合を含む。)において、年度単位以外の情報(月単位など)を示すことは否定するものではないが、誤解を招かないよう、年度単位の情報を併記することが望ましい。
② インバランス供給を受けた電気を過去の電源構成の実績値に仕分ける方法
電源構成を開示する小売電気事業者が一般送配電事業者から補給を受けているインバランス供給については、当該一般送配電事業者が公表するインバランス供給に係る電源構成の数値を織り込んで算定することが望ましい(当該数値が公表されていない場合には、その他へ分類する。以下同じ。)。
また、電源構成を開示する小売電気事業者が計画値同時同量を採用している場合には、発電事業者側に対してもインバランス供給が発生することとなるが、これについては、発電事業者と小売電気事業者の間の卸売契約に基づき計画どおりの発電量が供給されたとみなして算定する方法、又は補給を行う一般送配電事業者が公表するインバランス供給に係る電源構成の数値を織り込んで算定する方法のいずれかを採用することが望ましい。
③ 間接オークションを踏まえた算定方法小売電気事業者が、地域間連系線(以下「連系線」という。)を利用して電気を調達するために日本卸電力取引所で電気を取引する場合、当該電気は原則として「卸電力取引所」に区分されることとなる。しかしながら、後述の1(3)ウⅰ)④(※)のとおり、一定の要件を満たすときは、小売電気事業者は、その調達した電気を当該契約に定められた電源構成等の割合で調達したものとみなして区分することは問題とならない。
ただし、当該要件を満たし、連系線を利用して調達した電気につき契約に定められた電源構成等の割合で調達したものとみなして区分することができる場合には、その区分し得る電力量については、電源種別により取扱いを変えることなく一律に、特定された電源構成等の割合を用いて算定し表示するか、全量を「卸電力取引所」に区分して表示することが望ましい。
④ 電源特定メニューを提供する場合の電源構成の算定方法(当該電源特定メニュー分の控除)
小売電気事業者が電源特定メニューにより電気を供給する場合において、電源構成を開示するときは、電源特定メニュー以外のメニューにより電気を購入する需要家の誤認を防ぐ見地から、以下の算定例に従い[7]、当該小売電気事業者が調達する全ての電源構成から電源特定メニューによる販売電力量を控除して算出した電源構成等を記載することが望ましい。
控除に当たっては、各電源から調達した電力量を前年度実績値に基づき算定する場合には、電源特定メニューの販売電力量も前年度実績値を用い、各電源から調達した電力量を当年度計画値に基づき算定する場合には、電源特定メニューの販売電力量も当年度計画値を用いることが望ましい。ただし、各電源から調達した電力量を前年度実績値に基づき算定する場合であっても、電源特定メニューの前年度実績値が存在しない場合には、当該電源特定メニューの前年度実績値が存在しない旨を付記した上で、当該電源特定メニューの当年度計画値を用いて控除を行うことも許容される。
<算定例>
前年度調達実績(全体) 合計10000kWh水力:1000kWh、石炭火力:2000kWh、LNG火力:2200kWh、原子力:1000kWh、FIT電気(風力):100kWh、太陽光
:500kWh、卸電力取引所:1300kWh、その他:1900kWh水力電源20%以上メニュー:前年度販売実績 2000kWh
(うち水力25%)
① 電源特定メニューでの販売電力量を特定する(2000kWh)
② ①の販売電力量を、当該電源特定メニューの供給割合に応じて各電源に割り当てる(水力:25%=500kWh、残りの1500kWhを石炭火力:LNG火力:原子力:FIT電気(風力):太陽光:卸電力取引所:その他
=20:22:10:1:5:13:19の割合で割り当てる。)
③ 調達した電力量の全体から②で算定した電源特定メニューでの各電源の販売電力量を電源ごとに控除し、各電源について、調達した電力量の合計(10
000kWh)から①の販売電力量(2000kWh)を控除したもの(8
000kWh)で除す(水力の場合、(1000kWh-500kWh)÷
(10000kWh-2000kWh)=6.25%)
ウ 問題となる行為
上記のとおり、小売電気事業者が電源構成等の情報を開示する際に、明確な根拠なく算定することや、需要家の誤認を招きかねない方法で開示することは、需要家の混乱を招くとともに、事業者間の競争条件を歪める可能性がある。
このため、電源構成等の情報の開示を行う場合には、小売電気事業者は適切な方法で開示することが求められる。
小売電気事業者によっては、電源構成等を小売供給の特性としない事業者もいる一方で、例えば「再生可能エネルギーを一定割合以上含む電源構成で供給するメニュー」など、電源構成等を小売供給の特性とするメニューを提供する事業者も存在する。こうした差異があることを踏まえ、以下、ⅰ)一般的に問題となるもの(電源構成等を小売供給の特性としないものの電源構成等の情報を開示する場合を含む。)、ⅱ)電源構成等を小売供給の特性とする場合においてのみ問題となるもの、ⅲ)FIT電気9を販売しようとする場合においてその説明を行うときにのみ問題となるもの、ⅳ)非化石証書を使用した場合においてのみ問題となるもの、ⅴ)「○○地域産電力」や「地産地消」等、発電所の立地地域を小売供給の特性とする場合においてのみ問題となるものの別に規定している。
ⅰ) 一般的に問題となるもの
電源構成等を小売供給の特性としない場合を含め、一般的に、小売電気事業者が
9電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」という。)第2条第2項に規定する再生可能エネルギー電気(小売電気事業者が当該調達した再生可能エネルギー電気について再エネ特措法第28条第1項の交付金を受けている場合に限る。)をいう。再エネ特措法に従い、以下のエネルギー源を変換して得られる電気である必要がある。以下同じ。
① 太陽光
② 風力
③ 水力(設備認定基準上、出力が3万kW未満の水力発電所を用いたものに限定されている。)
④ 地熱
⑤ バイオマス(動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品を除く。)。以下同じ。)
以下のような電源構成等の開示等を行うことは、これにより需要家の混乱や誤認を招き、又は事業者間の競争条件を歪めることとなる場合には問題となる。なお、媒介・取次・代理業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
なお、小売電気事業者が発電事業も行っている場合に、その発電構成を表示することや、例えば、太陽光発電を行っている小売電気事業者が販売電力量以上の発電を行っている場合に「当社は販売電力量の100%に『相当』する量の太陽光発電を行っている。」旨を表示することは問題とならない。ただし、いずれについても、
小売供給に係る電源構成と異なることについて誤認を招かない表示である必要がある。
① 電源構成によって、需要家が供給を受ける電気の質自体が変わると誤認されるような表示を行うこと。
一般送配電事業者が維持・運用する送配電網を経由して電気を流す場合、ある発電所の電気は他の発電所からの電気と物理的に混ざることとなる。このため、需要家が実際に供給を受ける電気は全て均等の性質を有し、かつ、需要家が、物理的に特定の発電設備から電気の供給を受けることはできない。
それにもかかわらず、「クリーンな電源で発電しているためきれいな電気が届く」、「安定的に発電できる電源を用いているため周波数や電圧が安定している」など[8]、小売電気事業者が開示する電源構成が、あたかも需要家が供給を受ける電気の質と同様であるかのような説明をすることや、電源構成によって需要家が供給を受ける電気の質に差異があるかのような説明をすることは、需要家の混乱を招く可能性があり問題となる。
② 開示している電源構成等の情報が、特定の算定期間における実績又は計画であることを明示しないこと。
小売電気事業者の電源構成は時々刻々と変化するものであることから、開示され
る電源構成について、どの算定期間におけるものであるのかを明示する必要がある。
③ 電源構成等の情報について、割合等の算定の明確な根拠なく、又は、割合等の数値及びその算定の具体的根拠(例えば、他者から電気の卸売を受けている場合における前述の1(3)イⅱ)の具体例「注1」のような説明)を示さずに、情報の開示を行うこと。電源構成の割合の数値は、他の小売電気事業者の電源構成と比較する際の基本的な情報であるため、電源構成を開示するのであれば、合理的な根拠に基づき算定し、かつ、単にイメージ図を掲載するといった方法ではなく、具体的な数値を示す必要がある。また、他者から調達した電気(連系線を利用して電気を調達する場合を含む。以下同じ。)については、過去の実績値等一定の仮定を置いて電源構成を仕分けていることから、仕分け方法を明示するなど、算定の具体的根拠を示す必要がある。
電源構成等を小売供給の特性としない場合であっても、調達の計画値又は実績値などの合理的根拠がないにもかかわらず、特定の電源構成等が供給条件であるかのような表示をすることは、需要家の誤認を招く可能性があり問題となる。また、「水力電源を含む」と表示するなど、特定の電源の電気が含まれることを開示する場合には、その根拠として、当該電源により発電された電気(日本卸電力取引所から調達した電気として表示しなければならない電気に含まれ得るものを除く。)を調達する計画が必要となる。「再生可能エネルギー○%以上を目指す」等の目標値の表示も、調達計画と著しく異なるにもかかわらず供給する電気の電源構成が当該目標値のとおりであると需要家を誤認させる場合には、問題となる。
また、小売電気事業者が、供給地域の電線路と電気的に接続されていない地域で発電された電気を供給する旨の表示を行うことは、根拠を欠くものであり、問題となる。
④ 以下の(ア)から(ケ)までの電源の区分けについて、需要家の混乱や誤認を招く方法で開示すること。
(ア) 水力発電所[9](出力3万kW以上)により発電された電気[10]
(イ) 火力発電所により発電された電気のうち、石炭を燃料種とするもの
(ウ) 火力発電所により発電された電気のうち、ガスを燃料種とするもの
(エ) 火力発電所により発電された電気のうち、石油その他を燃料種とするもの
(オ) 原子力発電所により発電された電気
(カ) 再生可能エネルギー発電所[11]により発電された電気(FIT電気を除く。)
(キ) FIT電気(具体的な説明の方法については、後述の1(3)ウⅲ)参照。)
(ク) 日本卸電力取引所から調達した電気(※)
(ケ) その他
なお、上記の区分けに加え、例えば、火力発電所の中でも高効率かどうかや石炭・ガスの中でもどのような燃料かといった点を踏まえた分類をする等、事業者が様々な工夫の中で詳細な説明をすることは妨げられるものではない。
また、上記の区分けを表示した上で、原子力、水力、再生可能エネルギー(非化石証書の裏付けのないFIT電気を除く。)等を二酸化炭素排出量がゼロの電源(いわゆる「CO2ゼロエミッション電源」)であるとしてまとめて表示する場合でも、需要家の混乱や誤認を招かない方法であれば問題とならない。
(※)間接オークションを用いた調達の場合
小売電気事業者が、連系線を利用して電気を調達するために、日本卸電力取引所を介して電気を取引する場合、当該電気は日本卸電力取引所から調達した電気に該当する。しかし、小売電気事業者が連系線を利用して他の事業者から調達する電気につき、(ア)売入札側の事業者との間で電源構成等を特定した契約を締結し[12]、かつ、(イ)日本卸電力取引所において同一の30分の時間帯に当該小売電気事業者及び売入札側の事業者が入札し約定した電気の総量が当該契約に基づいて調達されたとする電力量以上であるとき[13]は、小売電気事業者は、その調達した電気を当該契約に定められた電源構成等の割合で調達したものとみなして区分しても問題とならない。また、ある事業者が売入札した電気を連系線を介して自ら買い戻すために日本卸電力取引所に入札するときは、同一の30分の時間帯における自社電力の買戻しに相当する電力量について、売入札側の電源構成等の割合で区分して電源構成等を算定しても問題とならない。
これらの要件を満たさないにもかかわらず、日本卸電力取引所を介して調達した電気を区分するに当たり、売入札側の電源構成等を用いて算定することは、問題となる[14]。
⑤ 過去の実績情報等を含む電源構成に関する情報が利用可能な電気の卸売(常時バックアップを含む。)を受けている際に、当該卸売を受けている電気に係る電源構成等の情報を踏まえて電源構成等を仕分けずに電源構成等の開示を行うこと。
(※)常時バックアップについては、資源エネルギー庁が集計している電力調査統計において公表される旧一般電気事業者の発電部門の電源種別の発電実績(ただし、当該旧一般電気事業者がウェブサイト等で電源構成を公表している場合は当該数値)に基づき仕分ける必要がある(この場合、前述の1(3)イⅱ)の具体例「※3」のような説明を示す必要がある。)。
小売電気事業者が他者から調達した電気については、当該調達先から電源構成の情報が開示されている場合や、当該調達先との間の契約上特定の発電所から電気を調達することとしている場合には、当該小売電気事業者が調達した電力量について電源構成を仕分けることが可能である。
また、発電所を特定せずに電気を調達することとしている場合であっても、当該調達先から電源構成情報の開示を受けている場合や、当該調達先のホームページにおいて過去の電源構成が公開されている場合などには、当該調達した電力量についても、これらの情報を用いて電源構成に仕分けることが可能である。
したがって、卸売を受けている電気のうち、上記によって仕分けることができるものについては、電源構成の開示にあたっては当該仕分けを行うことが必要となる。
卸売を受けている電気のうち、上記によっても仕分けることができないものについては、「日本卸電力取引所から調達した電気」に区分すべきものを除き(後述の1
(3)ウⅰ)⑥を参照)、「その他」に区分したとしても問題とはならない。
⑥ 「日本卸電力取引所から調達した電気」に区分される電気について、どのような電気が含まれ得るのか明示しないこと。また、日本卸電力取引所から調達した電気の二酸化炭素排出係数について、取引所で約定された事業者の事業者別の基礎排出係数を約定した電力量に応じて加重平均することにより算定する方法[15]以外の方法で算定すること。
日本卸電力取引所から調達した電気(前述の1(3)ウⅰ)④(※)に基づき、連系線を利用して電気を調達するために日本卸電力取引所を介して電気を取引し、当該契約に基づき特定された売入札側の電源構成等で調達したものとみなして区分する場合を除く。)については、実務上の負担にかんがみ、一定の電源構成を算定することは困難であることを踏まえ、実際の電源構成にかかわらず、「卸電力取引所」として区分した上で、どのような電気が含まれ得るのか(水力、火力、原子力、
FIT電気、再生可能エネルギーなどが含まれ得ること)を明示する必要がある。
⑦ 小売電気事業者が発電・調達した特定の電源種の電力量及び特定の地域の発電所で発電した電力量について、他の小売電気事業者に転売・譲渡等をしているにもかかわらず、自己の需要家向けの販売電力量に算入する、又は電源特定メニューなどで特定の需要家向けに用いることとしているにもかかわらず、他のメニューを契約している需要家向けの販売電力量に算入するなど、電力量の「二重計上」を行うこと。
⑧ 例えば昼間に発電・調達した電気を夜間に供給する電気とみなすなど、異なる時点間で発電・調達した電力量を移転する取扱いを行った上で電源構成等の算定を行うこと(下図参照)。
太陽光発電所で発電する場合などにおいて、夜間は物理的に発電しない時間帯があるにもかかわらず、昼間に発電した電気を夜間に供給する電気とみなすことや、特定の時間帯に発電・調達した電気を別の日の同じ時間帯に供給する電気とみなすことなど、異なる時点間で電力量を移転する取扱いを行うことは、電気の供給実態と著しく乖離していること、時間帯によって電気の価値が異なる点を無視していることから、問題となる。
ただし、蓄電池を用いて太陽光発電所で発電した電気などを供給する場合については、異なる時点間で実際に電気の充電・放電が行われているため、開示に当たって電力量が移転したとして算定することに問題は無い[16]。
⑨ 電源特定メニューを提供する小売電気事業者が、電源構成の開示に際して当該電源特定メニューの販売電力量を控除しない場合に、当該電源特定メニューでの販売電力量が含まれることを明示しないこと。
小売電気事業者が需要家に対して電源特定メニューにより電気の販売を行う場合、電源構成の開示に際して当該電源特定メニューでの販売電力量を控除せずに算定した電源構成を開示する場合には、下記のように、電源特定メニューによる販売電力量を含んだ電源構成割合であることに関する適切な注釈を付す必要がある。このような注釈を付さないことは、電源特定メニュー以外のメニューにより電気を購入する需要家の誤認を招きかねず、問題となる。
例(水力電源を20%とする電源特定メニューを販売している場合)
当社は水力電源を20%とするメニューを一部のお客様に対して販売しており、表示されている電源構成割合は、全販売電力量(○kWh)のうち、このメニューによる販売電力量(○kWh)を含んだ数値です。(○年度(○年4月1日~○年
3月31日)の実績値)
ⅱ) 電源構成等を小売供給の特性とする場合においてのみ問題となるもの
電源構成等を小売供給の特性とする場合には、説明義務・書面交付義務の内容として、当該特性の内容及び根拠を説明し、契約締結前・締結後交付書面に記載する必要がある(電気事業法第2条の13及び第2条の14並びに施行規則第3条の12第1項第23号及び第8項並びに第3条の13第2項)。例えば、小売電気事業者等による下記のような行為は問題となる。
① 電源構成等を供給する電気の特性として需要家に供給する小売電気事業者が、当該需要家に対し、販売する当該年度の電源の割合の計画を示すことなく、過去の電源構成等の実績値のみをもって電源の割合を示すこと。
小売電気事業者が供給する電気に係る電源構成等は、時々刻々と変化していくものであること、また、例えば太陽光発電や風力発電など天候により発電量が左右される電源があることから、各供給時点における電源構成等を厳密に把握することは困難であり、また現実的ではない。しかしながら、小売電気事業者等は、需要家に対して実際に供給する電気の特性を説明すべきことから、過去の実績値のみを使用して電源構成等の説明を行うのではなく、将来の計画を示して説明を行うべきである。
この際、計画の対象となる電源構成等の算定期間は、電気を供給する年度(4月1日から翌年の3月31日まで)を単位とすることを基本とする。ただし、年度の
途中で、電源構成等を小売供給の特性として電気の販売を開始する場合にあっては、当該算定期間は、当該販売を開始した日から当該販売を開始した日が属する年度の末日(3月31日)までとする。
② 電源構成等を供給する電気の特性として需要家に供給する小売電気事業者が、当該需要家に対して、電源構成等の実績値について事後的な説明を行わないこと。
上記のとおり、小売電気事業者等が説明する電源構成等は販売する年度を単位とするため、販売時点においては計画値となる。したがって、小売電気事業者等は、需要家に対して、事後的に当該計画値と実績値がどの程度整合しているかどうかについて、適切に説明をすることが必要となる。
ⅲ) FIT電気を販売しようとする場合においてその説明を行うときにのみ問題となるもの
小売電気事業者がFIT電気を販売しようとする場合に、小売電気事業者等が当該電気について説明する際に留意すべき事項は以下のとおりである。
再生可能エネルギーの発電事業者からFIT電気を調達している電気事業者が、再エネ特措法第28条第1項の交付金の形で費用補填を受けている場合、発電された電気の二酸化炭素を排出しないという特性・メリットは、当該電気の供給を受けた特定の需要家に帰属するのではなく、非化石証書の購入分について購入者に帰属
するほかは、費用を負担した全需要家に薄く広く帰属することとされている[17]。この点を踏まえると、小売電気事業者がFIT電気を販売する際には、当該電気の販売に応じて、その電気に係る調整後二酸化炭素排出量に相当する二酸化炭素削減相当量を基礎づける量の非化石証書を使用(非化石証書を償却(費用化)することをいう。以下同じ。)する場合を除き、当該電気について二酸化炭素が排出されない電気であることの付加価値を訴求しない方法により説明をする必要がある(施行規則第3条の12第2項)。
小売電気事業者が販売するFIT電気の量に相当する量の非化石証書を当該電気の販売に応じて使用しない場合、二酸化炭素が排出されない電気であることの付加価値を訴求しない方法による説明といえるためには、需要家にとっての分かりやすさの観点から、(ア)「FIT電気」である点について誤解を招かない形で説明すること、(イ)当該小売電気事業者の電源構成全体又は電源を特定しないメニューに占める割合を説明すること、及び(ウ)FIT制度の説明をすること(※)、という3要件を満たす必要がある。
(※) FIT電気については、賦課金を通じた国民全体の負担及び非化石価値取引市場における非化石証書の売却収入により賄われているものであり、費用負担や二酸化炭素排出係数の取扱いが他の再生可能エネルギー電源で発電した電気と異なり、火力発電による電気なども含めた全国平均の電気のCO2排出量を持った電気として扱われるなど、非化石電源としての価値は有さないことに関する適切な注釈を付す必要がある。
ただし、当該小売電気事業者が、販売するFIT電気の量に相当する量の再生可能エネルギー指定の非化石証書を当該電気の販売に応じて使用する場合においては、再生可能エネルギー指定の非化石証書の使用により実質的に再生可能エネルギーによる電気を供給している旨の注釈を付記することも認められる。
例えば、小売電気事業者等が下記のような行為を行う場合は、二酸化炭素が排出されない電気であることの付加価値を訴求しているものと考えられ、問題となる。
① 上記3要件のいずれか1つでも満たさない説明を行うこと。なお、3要件を全て満たした上で、「再エネ」や「太陽光」などといった契約上の電源種別の事実を表示・説明すること、「再エネ発電事業者から調達した電気」といった中立的な事実関係を追加的に表示・説明することは問題とならない。
② FIT電気を販売している場合において、「グリーン電力」、「クリーン電力」、
「きれいな電気」その他これらに準ずる用語を、個別メニューや事業者の電源構成の説明に用いること。
合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会「非化石価値取引市場について」(2017年12月)参照。
(※)このような説明は、上記3要件を全て満たしていたとしても、需要家の誤認を招く行為として問題となる。
③ FIT電気について、「FIT電気」以外の曖昧な用語や需要家の誤認を招く用語を用いること。
(※)需要家の混乱を回避する観点から、「FIT電気」は一語として表示・説明することが求められ、これに反する表示・説明は問題となる(問題となる例:「FIT(再エネ/太陽光)電気」という表示に、割合の表示やF
IT制度の説明を付記する場合等)。
ⅳ) 非化石証書を使用した場合においてのみ問題となるもの
小売電気事業者が非化石証書[18]を購入した場合に、小売電気事業者等が当該証書に基づき需要家へ訴求をする際に留意すべき事項は以下のとおりである。
非化石価値取引市場について、非化石証書が化体する非化石価値は「小売供給を行うために発電・調達する電気」に関する電源構成そのものとは異なること(前述の序(3)参照)等から、非化石証書を使用したとしても小売電気事業者の電源構成には影響しない。このため、小売電気事業者が再生可能エネルギー指定の非化石証書を使用したことを理由として「再生可能エネルギー電気を100%発電・調達している」と表示するなど、実際に小売供給を行うために再生可能エネルギー電気を発電・調達しているものとの需要家の誤認を招くような表示を行うことは問題となる。
ただし、再生可能エネルギー指定の非化石証書を電気の販売に応じて使用した小売電気事業者が「再生可能エネルギー指定の非化石証書の使用により、実質的に、再生可能エネルギー電気●●%の調達を実現している」などと訴求することや、非化石証書を電気の販売に応じて使用した小売電気事業者が「非化石証書の使用により、実質的に、二酸化炭素排出量がゼロの電源(いわゆる「CO2ゼロエミッション電源」)●●%の調達を実現している」などと訴求することは、当該事業者が同証書の使用により環境価値の訴求が可能となることから、実際の電源構成の表示を併せて行うなど、小売供給に係る電源構成と異なることについて誤認を招かない表示である限りにおいては、問題とならない。
ⅴ) 「〇〇地域産電力」や「地産地消」等、発電所の立地地域を小売供給の特性とする場合においてのみ問題となるもの
小売電気事業者が「〇〇地域産電力」又は「地産地消」と訴求して需要家へ電気を販売する場合等、発電所の立地地域を小売供給の特性とする場合、当該特性の内容及び根拠を説明し、契約締結前・締結後交付書面においても記載しなければならないが(電気事業法第2条の13及び第2条の14並びに施行規則第3条の12第1項第23号及び第8項並びに第3条の13第2項)、この際に留意すべき事項は以下のとおりである。
「地産地消」とは、一般に、発電場所と供給場所との地域的同一性を前提とした概念であることから、これを訴求して需要家へ電気を販売するためには、最低限「主として特定の地域の発電所で発電した電気を、同一地域の需要家へ電気を販売し、消費すること。」という要件を満たす必要がある。また、「地産地消」という場合、一定の限定された地域において発電し消費されることが基本であり、例えば、関東地方など一定の広い地域を特定して「地産地消」であると訴求することは望ましいものではない。「○○地域産電力」とは、「主として特定の地域の発電所で発電した電気」をいい、「地域」の考え方については原則として、上記「地産」と同様である[19]。
一方、「地産地消」の概念については、分散型電源のように基幹系統にほとんど電気を流す必要のない範囲の電源に限定すべきではないか、また、「地産」の概念については、燃料が特定の地域のものである場合に限定すべきではないか、など様々な考え方があるものの、いずれをもって「地産地消」又は「地産」と考えるかは需要家によっても異なり、上記以上の詳細な要件を設定することは困難である。
そこで、小売電気事業者の創意工夫の余地の拡大と需要家への適切な開示を確保する観点から、小売電気事業者が、発電所の立地地域を根拠として「○○地域産電力」又は「地産地消」と訴求して需要家へ電気を販売しようとする際には、「発電所の立地地域」(「○○地域産電力」と訴求する場合)又は「発電所の立地場所及び電気の供給地域」(「地産地消」と訴求する場合)を説明することが最低限必要となる(施行規則第3条の12第1項第23号)。小売電気事業者等が、「○○地域産電力」又は「地産地消」などと需要家に訴求しておきながら、「発電所の立地地域」又は「発電所の立地場所及び電気の供給地域」について十分な説明等をしていない場合や誤認を招く説明等を行っているような場合は、問題となる。
なお、小売電気事業者等は、上記に加えて、どのような意味で「○○地域産電力」又は「地産地消」であるかについても説明し、契約締結前・締結後書面にも記載することが望ましい。例えば、輸入燃料を用いずに特定の地域で産出された燃料をもって発電したことを理由に「地産」と訴求するのであれば、こうした点を説明することが望ましい(ただし、小売電気事業者等によるこのような説明が虚偽であるなどの場合は、問題となる。)。また、「地産」と訴求していても、日本卸電力取引所や常時バックアップなど他者から調達した電気を用いている場合には、こうした点も説明することが望ましい。
2 営業・契約形態の適正化の観点から問題となる行為等
(1) 電気事業法上問題となる営業・契約形態
ア 問題となる営業・契約形態
小売の全面自由化により、小売電気事業者による新たな営業・契約形態の創出が想定されており、そうした事業者による取組は望ましいことである。ただし、そうした営業・契約形態のうちには、電気事業法上問題となるものもあり、具体的には以下のような行為は原則として問題となる。
○ 受電実態がない者が、需要家に代わり当該事業者の名義で、あるいは需要家の契約名義を当該事業者に書き替えることにより、小売電気事業者等と小売供給契約を締結し、需要家に電気を提供するような行為。
電気事業法上、「需要」とは、最終的な電気の使用者や受電実態を有する者など、物理的な実態のある電気の使用・受電を前提としており、小売供給契約は、需要家たる最終的な電気の使用者などと、当該者に電気を供給する者との間において締結することが原則である。
上記のような行為は、需要家に代わり契約名義人となっている小売電気事業者には電気の受電実態がないにもかかわらず、自らが需要家であるかのように装って、形式上小売電気事業者から電気の供給を受け、最終的な電気の使用者に当該電気を提供するという、実態に則さない契約形態を生じさせるものであり、電気事業法上許容すべきものではない。
また、上記のような行為が行われた場合、需要家に代わり契約名義人となっている小売電気事業者が小売供給契約上の需要家と形式上されていることから、最終的な電気の使用者がスイッチングをしたいと考えたとしても、供給元の小売電気事業者と最終的な電気の使用者の間で契約関係がないため、簡易・迅速なスイッチングができないなど、需要家保護の観点からも許容し得ない。
したがって、小売電気事業者により上記のような行為が行われた場合は、これにより電気の使用者の利益の保護又は電気事業の健全な発達に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
また、小売電気事業の登録等を受けていない者が、需要家に代わり小売供給契約の契約名義人となる場合において、最終的な電気の使用者に対して電気を提供したときは、電気事業法第2条の2に違反する無登録営業として罰則(1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれらの併科)の対象となり得る(電気事業法第117条の2第1号)。
イ 既に締結されている問題となる契約への配慮
前述の2(1)アで提示した電気事業法上問題となる営業・契約形態については、小売の全面自由化より以前に自由化されていた特別高圧・高圧部門(以下「既自由化部門」という。)において既に実施されている例が存在する。このような事例は、小売の全面自由化以前においても電気事業法上許容されないものであるから、すみやかに是正されるべきであるが、他方で、既に需要家への供給を行っている契約形態を即時に変更することを求めては、契約関係に混乱が生じるなどによって、需要家に影響が生じるおそれがある。
そこで、前述の2(1)アで提示した電気事業法上問題となる営業・契約形態のうち、既自由化部門において既に締結されている契約(以下「問題となる既存契約」という。)については、需要家への影響も考慮し、以下のような配慮をする。
すなわち、問題となる既存契約の契約期間が終了するときに契約の切替えを行うこととすれば、問題となる既存契約の変更を行わずに契約関係を適正化することができ、需要家への影響を抑えることが可能である。もっとも、契約期間が長期間残っている場合には、長期間にわたり電気事業法上問題となる営業・契約形態のままとすることを許容すべきではない。
そこで、問題となる既存契約については、当該契約の契約期間が満了するとき(契約期間が長期間残っている場合は、契約満了を待たず平成31年1月目途)に契約関係の是正を求めることとし、報告徴収等を通じて是正の状況を確認していく。なお、問題となる既存契約の期間延長・更新等を行うことは許容されない。また、需要家が早期の是正を希望する場合には、需要家への影響を考慮する必要はないことから、速やかに是正に応じることが求められる。
ウ 例外的に許容される一定の特別な関係
前述の2(1)アの行為は、原則として電気事業法上問題となる営業・契約形態に該当することとなるが、需要家(実際の電気の使用者)と需要家に代わり小売供給契約の契約名義人となる者との間に、一定の特別な関係が認められる場合は、例外的に許容されることがある。
具体的には、実際の電気の使用者と異なる者が契約者となっている場合であっても、両者の関係性(親子関係にある、親子会社関係にある等)や電気料金の実質的な負担者等から総合的に判断し、社会通念上、契約者を電気の使用者と認められるだけの「一定の特別な関係」がある場合には、前述の2(1)アの行為は例外的に許容される。
一定の特別な関係が明らかに認められない例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
① 自己の会員であることを理由として、それ以上の関係の無い者の自宅の契約者となる場合
② 取引先であることを理由として、それ以上の関係の無い者の事業所の契約者となる場合
(2) 小売電気事業者の媒介・取次ぎ・代理における問題となる行為及び望ましい行為
ア 小売電気事業者の媒介・取次ぎ・代理の電気事業法上の位置づけ
小売電気事業のライセンスを有しない者が、小売供給契約の締結の「媒介」、「取次ぎ」又は「代理」を行うことは、電気事業法上許容される(電気事業法第2条の13第1項参照)。
なお、「媒介」とは、他人(小売電気事業者及び小売供給を受けようとする者)の間に立って、当該他人を当事者とする法律行為(小売供給契約)の成立に尽力する事実行為をいう。また、「取次ぎ」とは、自己の名をもって、他人(小売電気事業者)の計算において、法律行為(小売供給契約)をすることを引き受ける行為をいう。さらに、「代理」とは、他人(小売電気事業者)の名をもって、当該他人のためにすることを示して行う意思表示をいう。
小売供給契約の締結の媒介等を行う場合、媒介・取次・代理業者は、需要家に対して説明義務及び契約締結前・締結後の書面交付義務を負う(電気事業法第2条の13及び第2条の14。後述の【参考:供給条件の説明義務・書面交付義務の解説】参照。)。
以下に、小売供給契約の締結の媒介等を行う場合のモデル図を示す。
イ 問題となる行為
ⅰ) 小売電気事業者が媒介・取次・代理業者を利用する場合の営業活動の在り方
小売電気事業者が小売供給契約の締結に媒介・取次・代理業者を利用するに際し、これらの者に対し、需要家への説明義務・書面交付義務等を果たすなど適切な営業活動を行うよう指示・監督しないことは、結果として、媒介・取次・代理業者が説明義務・書面交付義務に違反したときは、電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあり、問題となる。
ⅱ) 媒介・取次・代理業者の営業活動の在り方
小売の全面自由化後、媒介・取次・代理業者による様々な営業活動が予想されるが、その中で、テレビCM、WEB広告、チラシ等において、あたかも自己が電気の小売供給を行うかのような営業活動が行われる可能性がある。
もっとも、実際に小売供給を行い、電気事業法上の小売電気事業者としての義務を負うのは小売電気事業者であることから、需要家に誤解が生じないよう、媒介・取次・代理業者は、小売供給契約の締結の媒介等をしようとするときは、小売電気事業者の名称や、自己が行う行為は媒介等であること等について説明する義務が課されている(電気事業法第2条の13第1項並びに施行規則第3条の12第1項第
1号及び第2号)。
もっとも、小売供給契約の締結の媒介等をしようとするときに一定の説明をしたとしても、媒介・取次・代理業者の上記のような営業活動により誤解が生じている場合には、需要家が小売供給の主体を十分に理解しないまま契約を締結してしまうおそれがある。
そこで、媒介・取次・代理業者の需要家に対する説明義務が尽くされているかについては、当該事業者の営業活動もあわせて勘案し、総合的に、需要家が実際に小売供給を行うのは小売電気事業者であることを十分に理解できるように説明を行っているかどうかという観点からも判断する。
なお、虚偽の営業活動や説明が許容されないことは当然であり、媒介・取次・代理業者によるテレビCM、WEB広告、チラシや供給条件の説明等において、媒介・取次・代理業者が「自社の電気を供給している」旨の表示等を行う場合には、需要家の誤解や混乱を招き、電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあるため、問題となる(小売電気事業者が適切に指導・監督をしない行為も問題となる。)。
ⅲ) 取次ぎを行う際に遵守すべき事項
小売電気事業者が、小売供給契約の締結に際し取次業者を利用する場合、小売供給契約は需要家と取次業者の間で締結され、小売電気事業者が契約締結主体とならない点で他の類型と異なる。このような特殊性から、小売電気事業者及び取次業者は、以下の事項を遵守することが必要であり、これらに違反する行為は、電気の使用者の利益の保護又は電気事業の健全な発達に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
① 小売供給の主体は小売電気事業者であるため、託送供給契約は小売電気事業者が一般送配電事業者との間で締結すること。
② 取次業者は、小売電気事業者の名称を説明する等、説明義務・書面交付義務を適切に遵守すること(電気事業法第2条の13及び第2条の14)。特に、電気の供給を行うのは、取次業者ではなく小売電気事業者であることについて、誤解を生じさせないよう注意して説明すること。
③ 電気事業法上の小売電気事業者としての義務(電気事業法第2条の12第1項の供給能力の確保や電気事業法第2条の15の苦情等の処理等)は、小売電気事業者が負うこと。
(※) 小売電気事業者が苦情等の処理の責任を負うことを前提に、取次業者も苦情等の処理を行うことは妨げられない。
④ 順次取次ぎ(取次業者がさらに他の者に取次ぎを委託すること)、需要家側の取次ぎを行わないこと。
⑤ 小売電気事業者は、取次業者との間の取次契約の解除等により需要家が不利益を受けないよう、十分な需要家保護策をとること。
例えば、小売電気事業者は、取次業者の債務不履行等を理由とする取次契約の解除をする場合、当該解除による不利益を需要家に負わせることのないよう措置すること(このような場合、小売電気事業者が従前と同等の小売供給契約を需要家と直接契約すること等)などが求められる。
ウ 望ましい行為
小売の全面自由化に便乗して、小売電気事業者の代理店である等と詐称し、各種機器の販売等の勧誘を行う事例が発生している。これらの中には、長期間かつ高額のリース契約を伴うものなどもあり、解約に際してトラブルも発生している。
このような状況等を踏まえ、小売電気事業者が、業務提携をしている媒介・取次・代理業者を自己のホームページ等において分かりやすく公表することは、上記のようなトラブルの防止に資するため望ましい。
(3) 高圧一括受電や需要家代理モデルにおける望ましい行為
マンションやオフィスビル等におけるいわゆる高圧一括受電による電気の提供は、当該マンションやオフィスビル等という一の需要場所における受電実態(設置された受電設備の所有や維持・管理)を有する高圧一括受電事業者が、当該需要場所におけるマンション各戸や各テナント等の最終的な電気の使用者に電気を提供するものである。このような受電実態を有する高圧一括受電事業者から最終的な電気の使用者への電気の提供は、一の需要場所内での電気のやりとりとして、電気事業法上の規制の対象外である(なお、このような受電実態を有する高圧一括受電事業者は、電気事業法上の需要家と位置づけられる。)。
しかしながら、高圧一括受電による場合、電気事業法の規制の対象外であるからといって、高圧一括受電事業者が最終的な電気の使用を希望する者に適切な情報提供をしないことや、電気を供給する契約の内容や解除手続及び苦情・問合せへの対応が不適正であること等により、当該者の利益が害されることはあってはならない。最終的な電気の使用者の保護の観点から、高圧一括受電事業者は、本指針に定められた小売電気事業者に求められる需要家保護策と同等の措置を適切に行うことが望ましい。
また、需要家に代わって、小売電気事業者との料金交渉や料金請求等をまとめて行うことや、代理サービスを他のサービスとセットで提供すること等により、需要家にメリットをもたらす需要家代理モデルが新たに想定される。需要家代理モデルにおける代理事業者はあくまで需要家の代理であって、小売供給契約の主体は小売電気事業者と当該需要家であることから、このような営業・契約形態も、電気事業法上の規制の対象外である。
需要家代理モデルの場合、高圧一括受電と異なり、需要家との小売供給契約の内容や解除手続及び苦情・問合せへの対応の適正性については、小売電気事業者が電気事業法上の責任を負っているが、電気事業法の規制の対象外であるからといって、需要家の代理事業者が需要家に適切な情報提供をしないことによって、需要家の利益が害されることがあってはならないことは、高圧一括受電による場合と同様である。そこで、需要家代理モデルにおける代理事業者は、本指針に定められた小売電気事業者に求められるものと同等の説明・書面交付を需要家に対して適切に行うことが望ましい。
以下に、マンションにおける高圧一括受電や需要家代理モデルのモデル図を示す。
(4) 小売電気事業者による業務委託における問題となる行為
供給能力の確保や需要家からの苦情・問合せへの対応、計画値同時同量制度への対応など小売電気事業者として必要な対応については、他の事業者へ業務委託を行うなどの措置を当該小売電気事業者の責任において講ずることは許容される。
なお、小売電気事業者としての業務を委託する場合であっても、電気事業法上、①小売電気事業者が自ら需要家に対して電気の供給(小売供給)を行うこと、②小売電気事業者が自ら一般送配電事業者等と託送供給契約を締結することが、それぞれ必要であり、これらの主体を他の者に変更する行為は、電気の使用者の利益の保護又は電気事業の健全な発達に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
以下に、小売電気事業者が業務委託を行う場合のモデル図を示す。
なお、小売電気事業者間でバランシンググループを組む場合、各小売電気事業者は、他の小売電気事業者とともに、複数者名義の託送供給契約を一般送配電事業者と締結することとなるため、上記②(小売電気事業者が自ら一般送配電事業者と託送供給契約を締結すること)は満たされる。したがって、上記①(小売電気事業者が自ら需要家に対して電気の供給(小売供給)を行うこと)が満たされている場合には、小売電気事業者は、このようなバランシンググループを組んだ上で、代表契約者等に対して計画値同時同量対応事務を委託し、一般送配電事業者との間のインバランス料金の精算事務などを代行してもらうことが可能となる。以下に、バランシンググループを組む場合のモデル図を示す。
3 小売供給契約の内容の適正化の観点から問題となる行為及び望ましい行為
小売の全面自由化後、小売供給契約の契約内容については当事者間の合意に基づき自由に定められることが原則である(経過措置料金に係る特定小売供給約款等を除く。)。ただし、需要家と小売電気事業者との間で情報の質・量や交渉力に差があることなどを踏まえると、需要家利益を著しく損ねるような不当な契約内容については、適正化を図る必要があり、例えば、以下のような行為が問題となる行為及び望ましい行為として考えられる。
(1) 不明確な電気料金の算出方法
小売電気事業者が、小売供給契約において、電気料金の算出方法を明確に定めないこと(「当社が毎月末に請求する額」や「時価」とするなど)は、需要家が料金水準の適切性を判断することを著しく困難にすることから、問題となる。
他方、何らかの明確な算式に基づき、日本卸電力取引所の取引価格に連動するなどの形で電気料金を定める小売供給契約などは、上記の弊害がなく、問題がないと考えられる。
なお、取次業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
(2) 小売供給契約の解除における問題となる行為及び望ましい行為
ア 問題となる行為
小売電気事業者が、以下に記載するように、需要家による小売供給契約の解除を不当に制限することは、電気の使用者の利益の保護又は電気事業の健全な発達に支障が生じるおそれがあることから、問題となる。
なお、取次業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による
指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
ⅰ) 小売供給契約の解除を著しく制約する内容の契約条項を設けること
(例) ① 需要家からの小売供給契約の解除を一切許容しない期間を設定すること
② 小売供給契約の解除に関して、不当に高額の違約金等を設定すること
③ 需要家からの申出がない限り契約期間終了時に契約を自動的に更新するという小売供給契約において、更新を拒否できる期間を極めて短い期間に設定するなどによって、需要家が更新を不要と考えた場合に、容易に更新を拒否することができないような契約条項を設けること
ⅱ) 小売供給契約の解除を著しく制約する行為をすること
(例) ① 需要家からの小売供給契約の解除の申出や、契約期間終了時の小売供給契約の自動的な更新を拒否する申出に応じないこと(コールセンターに電話しても担当者につながないなど速やかに対応しないことを含む。)
② 需要家からの小売供給契約の解除手続又は自動的な更新を拒否する手続の方法を明示しないこと
イ 望ましい行為
低圧分野において、需要家が転居を行う場合、現住所を供給場所とする締結済みの小売供給契約について、小売電気事業者又は取次業者(小売供給契約の締結の取次ぎをする場合)との間で変更・解除を行う必要が生じると考えられる。
この場合において、契約期間内に当該小売供給契約を変更・解除する場合には違約金等が発生する旨契約上定められているときには、期間内での契約内容の変更・解除として違約金等が発生することが想定される。
需要家が転居先で引き続き同じ小売電気事業者から供給を受けられる場合などには、同じ小売電気事業者との小売供給契約を継続することで対処が可能な場合もあるが、小売電気事業者が事業を展開する地域外への転居の場合、このような対応を需要家側では取り得ない。
このため、小売電気事業者は、契約期間内に解除する場合には違約金等が発生する旨定めた小売供給契約を締結している需要家が転居する場合において、転居先が解除申出時点において自己から小売供給を受けることができない場所であるときには、違約金等を負担することなく解除できるよう措置することが望ましい。
なお、需要家が転居をする場合、短期間での託送供給契約の解除・変更を理由として、託送供給契約に基づき小売電気事業者に請求された料金及び工事費の精算金(託送供給契約を締結していない旧一般電気事業者の契約においては、これに相当する費用)が発生する場合や小売供給契約の解除に伴い電気用品のリース債務残額の支払義務が発生する場合には、合理的な範囲で当該費用相当額を小売電気事業者が需要家に請求することは妨げられない。
(3) 競合相手を市場から退出させる目的での不当に安い価格での小売供給
小売電気事業者が、競合相手を市場から退出させる目的で不当に安い価格で小売供給を行うことは、小売電気事業者間の公正な競争を阻害するおそれがあり、これにより電気事業の健全な発達に支障が生じる(又は生ずるおそれがある)と認められる場合には、問題となる。
なお、取次業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
4 苦情・問合せへの対応の適正化の観点から問題となる行為及び望ましい行為
(1) 苦情・問合せへの対応に関し問題となる行為
小売電気事業者は、小売供給の業務の方法又は小売供給に係る料金その他の供給条件についての需要家(小売供給を受けようとする者を含む。)からの苦情及び問合せについて、適切かつ迅速にこれを処理しなければならない(電気事業法第2条の15)。小売電気事業者がこの苦情等の処理義務に違反することは問題となる。なお、小売電気事業者等が苦情・問合せに応じることのできる連絡先は、供給条件の説明の際に説明するほか、当該小売電気事業者等のホームページ等においても確認できるようにすることが求められる。
(2) 停電に関する問合せ対応に関して問題となる行為及び望ましい行為
苦情等の処理の具体例として、停電に関する問合せについては、託送供給に関するものであったとしても、小売電気事業者が需要家に対して適切に情報提供を行うことが適当であり、小売電気事業者が行うべき対応については、以下のように考えられる。
ア 問題となる行為
原因が不明な停電が生じた場合、小売電気事業者が需要家からの問合せに不当に応じな
いこと(需要家の相談に一切応じない、一般送配電事業者の連絡先を需要家に伝えないなど)は、小売電気事業者の苦情等の処理義務に反する可能性があり、問題となる。
イ 望ましい行為
ⅰ) 送配電要因であることが明らかな停電への対応
送電線の切断など、送配電設備の要因で停電していることが明らかな場合には、一般送配電事業者がホームページ等を通じて提供する情報を用いて、小売電気事業者が需要家からの問合せに対応することが望ましい。
また、このような場合には、一般送配電事業者は小売電気事業者に対して、停電情報をホームページ等を通じて適時に提供することが望ましい。
ⅱ) 原因が不明な停電への適切な対応
原因が不明な停電への対応について、小売電気事業者は、停電の状況に応じて需要家に対して適切な助言を行うとともに(ブレーカーの操作方法の案内等)、それでも解決しない場合には原因を特定するために一般送配電事業者や電気工事店に対して連絡を取る必要があることから、適切な連絡先を紹介することが望ましい。
5 小売供給契約の解除手続の適正化の観点から問題となる行為及び望ましい行
為
小売供給契約の解除手続については、需要家本人が知らない間に小売供給契約が解除され電気の供給が止まるおそれがあることから、需要家側から解除の申出があった場合には、小売電気事業者は、本人の意思に基づく申出か否かの確認を適切に行うことが重要である。一方で、解除の申出を受けた小売電気事業者が解除に円滑に応じることも、スイッチングを円滑に行う観点から重要である。
また、料金未払や小売電気事業者の倒産などにより、小売電気事業者から小売供給契約を解除しようとする場合については、需要家に混乱を来さないよう、需要家への十分な事前通知などが行われることが必要となる。
上記を踏まえ、小売供給契約の解除手続を適正化するため、例えば以下の行為は問題となる行為及び望ましい行為と位置づけられる。
なお、取次業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による指導
・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
(1) 需要家からの小売供給契約の解除時の手続における問題となる行為及び望ましい行為
ア 問題となる行為
ⅰ) 本人確認を行わないこと
小売電気事業者が小売供給契約の解除の申出を受けた際には、これが当該小売供給契約の相手方たる需要家からの申出であることを適切な方法(例えば、当該需要家の氏名、住所及び契約者番号のすべてを確認する等)により本人確認すべきである。これを怠った結果、需要家本人の意に沿わない解除手続を行うことは、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
ⅱ) 解除に速やかに対応しないこと
需要家側から小売供給契約の解除の申出があった場合、小売電気事業者により需要家の意に反した過度な「引き留め営業」や、過度な本人確認を行うことなどによって速やかに対応しない「引き延ばし営業」が行われるおそれがある。小売供給契約の解除の申出を受けた小売電気事業者や取次業者が解除に正当な理由なく速やかに応じないこと(小売電気事業者が、需要家から取次業者との間の小売供給契約の解除の申出を受けた場合において、取次業者に連絡するなどの対応を速やかに取らないことを含む。)は、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
ⅲ) スイッチング期間において取戻し営業行為を行うこと
需要家が切替え後の小売電気事業者にスイッチングを申し込んでから、スイッチングが完了し、切替え後の小売電気事業者による小売供給が開始されるまでの間(以下「スイッチング期間」という。)に、切替え前の小売電気事業者が、当該需要家が切替え後の小売電気事業者へのスイッチングを申し込んだ旨の情報(以下「スイッチング情報」という。)を知りながら、当該需要家が既に申し込んだスイッチングを撤回させることを目的とする行為(ただし、需要家の要請を受けて行う場合を除く。以下「取戻し営業行為」という。)を行うことは、これによりスイッチングを阻害し、電気事業の健全な発達に支障が生じるおそれがあり、問題となる。
なお、取戻し営業行為には、例えば、需要家のスイッチングの申込を知った後に行う、新たな契約内容の提案、金銭その他の経済上の利益の提示及び取引関係又は資本関係を理由とする要請などが含まれ、切替え前の小売電気事業者が需要家に対して旧小売供給契約の解除に伴って発生する違約金の情報(金額、それに至る算定及びその根拠条項)を説明することは問題とならないが、違約金の説明を名目に需要家へ接触する場合であっても、違約金の説明を正当な理由なく繰り返す行為などは、取戻し営業行為として問題となる。
ⅳ) 需要家からのクーリング・オフについて適切な対応を怠ること
特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号。以下「特商法」という。)は、訪問販売及び電話勧誘販売の2類型について、最終保障供給、離島供給及び特定小売供給(経過措置料金)による役務提供をクーリング・オフの適用除外としており(特商法第26条第3項第2号並びに特定商取引法に関する法律施行令(昭和51年政令第295号。以下「特商法施行令」という。)第6条の3第1号及び附則第3項)、これ以外の小売電気事業者が訪問販売等で消費者と小売供給契約を締結した場合をクーリング・オフの対象としているが、クーリング・オフによって需要家に対する電気の供給に支障が生じるようなことがあってはならない。このため、クーリング・オフの際、一般送配電事業者が適切な需要家保護措置をとることができるよう、小売電気事業者は、クーリング・オフを理由とする託送供給契約の解除を行う場合は、その旨を一般送配電事業者に通知した上で解除をすることが必要であり、このような適切な対応を怠ることは、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
また、需要家のクーリング・オフにより無契約であることを理由に電気の供給が停止される際には、一般送配電事業者は、例えば以下の措置をとることなどが必要であり、このような適切な対応を怠ることは、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあり、問題となる。
① 小売電気事業者による小売供給契約の解除により無契約状態となる需要家に対して、供給停止を行う5日程度前までに供給停止日を明示して、小売電気事業者と小売供給契約を締結しない場合には無契約状態を理由とする供給停止になる旨の予告通知を行うこと。
② 供給停止の予告通知の際に、最終保障供給(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給)を申し込む方法があることを説明すること(説明の方法は、訪問、電話、郵便等による書面送付、電子メールの送信などが適当)
なお、供給停止に当たって、一般送配電事業者が、需要家への配慮措置(供給継続の要望があった場合の1アンペアブレーカーの取り付け等の対応や需要家が在宅医療者、生活保護受給者等であることが確認できた場合の配慮措置等)を、最終保障供給約款(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給約款)に基づく契約を締結した上で行うことは前提となる。
イ 望ましい行為
小売電気事業者においては、取戻し営業行為を防止するため、スイッチング情報についての社内の情報管理体制の構築、営業活動に関わる役職員に対する社内教育、取戻し営業行為に関し問題となる行為等についての周知徹底など、取戻し営業行為の防止に関する適切な社内管理体制を構築することが望ましい。
(2) 小売電気事業者からの小売供給契約の解除時の手続
小売電気事業者が、需要家の料金未払や小売電気事業者の倒産等を理由に小売供給契約を解除する場合について、例えば以下の措置をとることなどが必要であり、このような適切な対応を怠ることは、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。ただし、需要家が小売電気事業者に対し事前に通知等をせずに需要場所から移転し、電気を使用していないことが明らかな場合には、以下の措置をとらずに小売供給契約を解除したとしても問題とならない。
① 小売供給契約の解除を行う15日程度前までに需要家に解除日を明示して解除予告通知を行うこと。
② 解除予告通知の際に、無契約となった場合には電気の供給が止まることや、最終保障供給(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給)を申し込む方法があることを説明すること(説明の方法は、訪問、電話、郵便等による書面送付、電子メールの送信などが適当)。
③ 小売供給契約の解除に伴い、当該需要場所に関する託送供給契約の解除を行う10日程度前までに、小売電気事業者側からの小売供給契約の解除を理由とすることを明示した上で、一般送配電事業者に託送供給契約の解除の連絡を行うこと。
また、需要家が料金未払や小売電気事業者の倒産等の理由により小売電気事業者から小売供給契約を解除され、無契約であることを理由に電気の供給が停止される際には、一般送配電事業者は、例えば以下の措置をとることなどが必要であり、このような適切な対応を怠ることは、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあり、問題となる。ただし、需要家が需要場所から移転し、電気を使用していないことが明らかな場合には、以下の措置をとらずに供給停止をしたとしても問題とならない。
① 小売電気事業者による小売供給契約の解除により無契約状態となる需要家に対して、供給停止を行う5日程度前までに供給停止日を明示して、小売電気事業者と小売供給契約を締結しない場合には無契約状態を理由とする供給停止になる旨の予告通知を行うこと。
② 供給停止の予告通知の際に、最終保障供給(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給)を申し込む方法があることを説明すること。
なお、供給停止に当たって、一般送配電事業者が、需要家への配慮措置(供給継続の要望があった場合の1アンペアブレーカーの取り付け等の対応や需要家が在宅医療者、生活保護受給者等であることが確認できた場合の配慮措置等)を、最終保障供給約款(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給約款)に基づく契約を締結した上で行うことは前提となる。
(3) 一般送配電事業者による託送供給契約の解除時の手続
小売電気事業者が事実上事業継続が困難になった等の場合に、一般送配電事業者が小売電気事業者による託送料金の未払等を理由に託送供給契約を解除する事態も想定される。このような場合、小売電気事業者と需要家との間の小売供給契約の解除の有無にかかわらず、一般送配電事業者により当該需要家に対する電気の供給が停止されるおそれがあるため、需要家に混乱を来さないよう、需要家への十分な事前通知などが行われることが必要となる。
したがって、一般送配電事業者が、小売電気事業者の上記のような事由を理由に託送供給契約を解除する場合については、例えば以下の措置をとることなどが必要であり、このような適切な対応を怠ることは、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
① 託送供給契約の解除を理由に電気の供給を停止する1月程度前及び5日程度前までの各々の時期に、需要家に対して供給停止日を明示して、託送供給契約の解除により電気の供給を停止する旨の予告通知を行うこと。
② 上記①の通知の際に、他の小売電気事業者と小売供給契約を締結するか、最終保障供給(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給)を申し込む方法があることを説明すること(説明の方法は、訪問、電話、郵便等による書面送付、電子メールの送信などが適当)。
なお、供給停止に当たって、一般送配電事業者が、需要家への配慮措置(供給継続の要望があった場合の1アンペアブレーカーの取り付け等の対応や需要家が在宅医療者、生活保護受給者等であることが確認できた場合の配慮措置等)を、最終保障供給約款(経過措置期間中の低圧部門への供給は特定小売供給約款)に基づく契約を締結した上で行うことは前提となる。
6 本指針の適用
平成30年12月27日の改定後の本指針は、同日から適用する。ただし、1(3)イⅱ) ②及び③、1(3)イⅲ)④並びに1(3)ウⅰ)⑨は、平成31年度以後の開示(平成31年3月31日以後に終了する年度(1年に満たない期間を用いて算定する場合、当該期間を含む。以下同じ。)に係る実績値又は平成31年4月1日以後に開始する年度に係る計画値に基づく開示をいう。以下同じ。)に適用し、平成30年度以前の開示(平成31年度以後の開示に該当しないものをいう。以下同じ。)については、1(3)イⅱ)中「① 電源特定メニューによる電気の販売を行わない場合」とあるのは「【具体例】」と読み替えるものとする。
なお、平成30年度以前の開示であって、改定後の本指針の適用日以後最初に終了する年度の実績値の確定後、算定に必要な期間に鑑みて合理的期間内に更新を行う予定のないものは、平成31年4月1日以後は、平成31年度以後の開示とみなして適用する。
【参考:供給条件の説明義務・書面交付義務の解説】
1 供給条件の説明
(1) 供給条件の説明の意義
小売の全面自由化が行われた後、一般の需要、すなわち不特定多数の需要に応ずる電気の供給については、小売電気事業者として登録を受ければ誰もがなし得ることとなるが、電気は国民生活や経済活動にとって欠くことのできない必需財である。
この点から、需要家に対して料金その他の供給条件に係る十分な説明が行われないことに起因するトラブルの発生を未然に防止するとともに、需要家が料金その他の供給条件を十分に理解した上で小売供給を受けることができる環境を整備する趣旨から、小売電気事業者に供給条件の説明義務が課されたものである。
また、小売の全面自由化を実施することに伴って多様なビジネス形態が生まれることが想定され、例えば小売電気事業者の代理人として小売供給に関する契約に係る営業活動を行い、需要家と当該契約を締結することなども考えられる。仮に上記の義務が小売電気事業者のみにしか課されなかった場合、代理人が料金その他の供給条件に係る十分な説明を行わないことにより、需要家の利益を損なうことも想定される。
このため、料金その他の供給条件の説明義務については、小売電気事業者のみならず、媒介・取次・代理業者に対しても課されている。
小売電気事業者等が供給条件の説明義務に違反したときは、業務改善命令等が発動され得る(電気事業法第2条の17第2項)。小売電気事業者等が経済産業大臣の業務改善命令に違反した場合には、罰則(300万円以下の罰金)の対象となり得る(電気事業法第118条第1号)。また、小売電気事業者が経済産業大臣の業務改善命令に違反した場合において、公共の利益を阻害すると認められるときは、登録の取消事由となる(電気事業法第2条の9第1項第1号)。
(2) 供給条件の説明の程度及び方法
供給条件の説明義務を課す目的は、需要家が料金その他の供給条件について十分に理解した上で、契約を締結することができるようにすることである。つまり、単に情報を伝達するだけではなく、需要家がその情報を十分に理解した上で、適切な判断ができるようにすることが、その趣旨である。
したがって、「説明」とは、単に小売電気事業者等が説明すべき事項に関する情報を需要家が入手できる状態とする、あるいは需要家に伝達するだけでは不十分であり、需要家が当該事項に関する情報を一通り聴きあるいは読むなどして、その事項について当該需要家の理解の形成を図ることが必要である。一方、小売電気事業者と需要家が契約を締結するに当たっては、小売電気事業者からの説明に対し、需要家からの質問や契約締結の意思表示がなされること等、小売電気事業者と需要家の間の双方向でのやりとりが生じる。このため、口頭や電話による説明の方法に限らず、インターネットのウェブサイト上で説明事項を需要家に閲覧させるいわゆるオンライン・サインアップによる説明の方法[20]や、ダイレクトメール・パンフレット等に説明事項を記載し、需要家にこれを読ませた上で小売供給契約の申込みを受け付ける場合における、当該ダイレクトメール等による説明の方法であっても、需要家に分かりやすい説明事項の記載を行う、需要家が理解したことを確認するなど、適切な対応を取ることにより、説明義務を果たすことは可能と考えられる。
(3) 説明すべき事項
ア 原則
小売電気事業者は、需要家と小売供給契約を締結しようとするときは、以下の事項を需要家に対して説明しなければならない(電気事業法第2条の13第1項及び施行規則第3条の12第1項)。
まず、小売電気事業者等に関する基礎的な情報として、以下の事項の説明をする必要がある(以下、施行規則第3条の12第1項の号数を示す。)。
・当該小売電気事業者の氏名又は名称及び登録番号(第1号)
・媒介・取次・代理業者が当該小売供給契約の締結の媒介等を行う場合には、媒介等を行う旨と当該媒介・取次・代理業者の氏名又は名称(第2号)
・当該小売電気事業者が需要家からの苦情や問合せに応ずるための連絡先(電話番号、電子メールアドレス等)及びその応ずることができる時間帯(第3号)
・媒介・取次・代理業者の連絡先(電話番号、電子メールアドレス等需要家からの苦情や問合せに応ずるためのもの)及び媒介・取次・代理業者が需要家からの苦情や問合せに応ずる場合には、その応ずることができる時間帯(第4号)
さらに、締結しようとする小売供給契約について、以下の事項についても説明をする必要がある。
・小売供給契約の申し込みの方法(第5号)
・小売供給開始の予定年月日(第6号)
・小売供給に係る料金(当該料金の算定方法を含む)(第7号)
・電気計器その他の用品及び配線工事その他の工事に関する費用の負担に関する事項(第8号)
(※) 具体的には、電気計器その他の用品に関する需要家の費用負担や、電線や引込線等の設備の工事に伴う需要家の費用負担が生じるのか否か(当該費用負担が小売供給に係る料金に含まれる場合にはその旨を明示することを含む。)及び当該費用負担の算定方法などが考えられる。
・第7号及び第8号に掲げるもののほか需要家が負担する費用がある場合にはその内容(第
9号)
・第7号から第9号までに掲げるものについて、期間限定の割引キャンペーン等、期間を限定して減免する場合にはその内容(第10号)
(※) 特定の需要家に対する割引キャンペーンなどで期間限定でないものなどがある場合は第7号の料金の説明として行う必要がある。
・契約電力や契約電流の定めがある場合にはその値又は決定方法(第11号)
・供給電圧及び周波数(第12号)
・供給電力及び供給電力量の計測方法並びに料金調定の方法(第13号)
(※) 具体的には、検針日、料金の算定期間・算定方法、使用電力量の計量方法及び日割計算に関する規定を設けることなどが考えられる。
・小売供給に係る料金及び第7号から第9号までに掲げるものの支払方法(第14号)
(※) 具体的には、料金の支払方法(口座振替、クレジットカード、払込み等)のほか、第8号の電気計器その他の用品及び配線工事その他の工事に関する費用負担に関する精算方法(一括前払いなのか、複数回での分割払いなのか等)が考えられる。
・一般送配電事業者から接続供給を受けて需要家に対し小売供給を行う場合には、託送供給等約款に定められた需要家の責任に関する事項(第15号)
(※) 小売供給を行うに当たり必要な工事を行うために一般送配電事業者など関係事業者が需要家の敷地内などに立ち入ることがあり、その立入りを許可するなど需要家の協力が必要であることなどが想定される。その他、託送供給等約款上定められる、託送供給等に伴う需要家の協力、保安等や調査に対する需要家の協力に関する規定について、その概要を分かりやすく記載することが必要となる。
・契約期間の定めがある場合には、その期間(第16号)及び自動更新に関する規定など契約の更新に関する事項(第17号)
・需要家が小売供給契約の変更や解除の申出を行う場合の連絡先や申出の方法(第18号)
・需要家からの申出による小売供給契約の変更や解除に期間の制限がある場合には、その制限の内容(第19号)、又は変更や解除を申し出た需要家が負担する違約金等がある場合にはその内容(第20号)
・第19号及び第20号に掲げるもののほか、需要家からの申出による小売供給契約の変更や解除に条件等がある場合にはその内容(第21号)
・小売電気事業者からの申出による小売供給契約の変更や解除に関する条件や内容など(第
22号)
・電源構成等を供給する電気の特性とする場合には、その内容及び根拠(第23号)
(※) 前述の本編1(3)ウⅱ)、ⅳ)及びⅴ)参照
・需要家の電気の使用方法、器具、機械その他の用品の使用等に制限がある場合には、その内容(第24号)・その他、小売供給に係る重要な供給条件がある場合には、その内容(第25号)
イ 説明事項の一部省略が認められる場合
以下に述べる契約の更新や契約の変更の場合においては、説明事項について一部省略することが認められる。また、これらの場合における説明の方法については、前述の1(2)に準ずることとなるが、小売電気事業者等からの説明の方法をあらかじめ原契約に定めておくことにより、その方法により説明することも可能である。
ⅰ) 契約の更新の場合
小売電気事業者又は取次業者が、既に締結されている小売供給契約を更新する場合(料金ほか契約条件について一切の変更をせずに当該小売供給契約の期間の延長のみをする場合)については、小売電気事業者等は、当該小売供給契約の更新後の契約期間のみを説明すれば足りる(施行規則第3条の12第3項)。
ⅱ) 軽微な変更以外の契約の変更の場合
小売電気事業者又は取次業者が、既に締結されている小売供給契約を変更しようとする場合(次に述べる軽微な変更をする場合を除く。)には、小売電気事業者等は、変更しようとする事項のみを説明すれば足りる(施行規則第3条の12第4項)。例えば、これまで小売電気事業者自らのコールセンターが需要家からの問合せ等に応じていたが、これを外部委託することになったため、連絡先が変わるという場合には、苦情及び問合せに応じる電話番号について説明すれば足りるということになる。
なお、需要家の理解の形成を図るとの説明義務の趣旨に鑑みれば、小売供給に係る料金の値上げなどの供給条件の変更の場合には、需要家が当該変更しようとする事項についての説明であると認識しやすい方法で伝達する必要があり、例えば、検針票・請求書の裏面に小さな文字(日本工業規格Z8305に規定する8ポイント未満の文字)で当該変更しようとする事項を記載するだけの方法では十分な「説明」がなされたとは言えないと解される。
ⅲ) 契約の軽微な変更の場合
小売電気事業者又は取次業者が、既に締結されている小売供給契約を変更しようとする場合(法令の制定又は改廃に伴い当然必要とされる形式的な変更その他の当該小売供給契約の内容の実質的な変更を伴わない変更をしようとする場合に限る。)には、小売電気事業者等は、変更しようとする事項の概要について説明を行えば足りる(施行規則第3条の12第5項)。例えば、当該小売供給契約において、「A法第B条」という条項を引用している場合において、その「A法」の改正により「第B条」が規定の内容に変更なく単純に「第C条」にずれるなど、当該小売供給契約の内容の実質的な変更とはならないようなものを想定している。また、変更された事項の概要について説明を行えば足りるため、上記事例の小売供給契約において「A法第B条」が複数箇所引用されている場合には、その一つ一つについて説明することを要しない。
ⅳ) 説明事項の一部省略が認められない場合
前述の1(3)イⅰ)からⅲ)のいずれの場合であっても、小売供給を受けようとする者が説明事項を一部省略することについて承諾しない場合については、説明すべき事項について全て説明する必要がある(施行規則第3条の12第3項ただし書、第4項ただし書及び第5項ただし書)。
2 契約締結前の書面交付義務
(1) 契約締結前の書面交付義務の意義
説明義務と同様、需要家に対して料金その他の供給条件に係る十分な説明が行われないことに起因するトラブルの発生を未然に防止するとともに、需要家が料金その他の供給条件を十分に理解した上で小売供給を受けることができる環境を整備する趣旨から、小売電気事業者等に対し、契約締結前の説明時における書面交付義務を設けているものである。
小売電気事業者等が契約締結前の書面交付義務に違反したときは、業務改善命令等が発動され得る(電気事業法第2条の17第2項)。小売電気事業者等が経済産業大臣の業務改善命令に違反した場合には、罰則(300万円以下の罰金)の対象となり得る(電気事業法第118条第1号)。また、小売電気事業者が経済産業大臣の業務改善命令に違反した場合において、公共の利益を阻害すると認められるときは、登録の取消事由となる(電気事業法第2条の9第1項第1号)。
(2) 遵守すべきルール
ア 契約締結前交付書面において記載が必要な事項及び記載の方法
小売電気事業者等が、前述の1の供給条件の説明をするときは、需要家に対し下記の事項を記載した契約締結前交付書面を交付しなければならない(電気事業法第2条の13第2項)(なお、下記の事項を記載するに際しては、文字の大きさを工夫するなど、読みやすく記載することが望ましい。)。
ⅰ) 原則
契約締結前交付書面の内容は、需要家に対し説明すべき事項と同内容である(施行規則第3条の12第8項)。詳細は前述の1(3)アを参照。
ⅱ) 契約締結前交付書面の記載事項の一部省略が認められる場合
前述の1(3)イで述べた、説明事項の一部省略が認められる場合(契約の更新の場合、軽微な変更以外の契約の変更の場合、契約の軽微な変更の場合)には、契約締結前交付書面において記載すべき事項についても同様の省略が認められる(施行規則第3条の12第9項から第11項まで)。ただし、需要家から説明事項を一部省略することについて承諾を得ていない場合には、このような記載事項の一部省略は認められない(施行規則第3条の12第9項ただし書、第10項ただし書及び第11項ただし書)。
イ 契約締結前の書面交付義務の例外的場合
小売電気事業者等が、小売供給契約を締結しようとする場合であっても、一定の場合には契約締結前の書面交付義務を原則どおり適用することは妥当でないことから、以下の場合について例外が認められている(施行規則第3条の12第6項)。
ⅰ) 電話による説明を行う場合
小売電気事業者等が需要家に対し電話で営業活動をする場合には、供給条件の説明の際に書面を交付することが困難(例えば、事前に郵送で当該需要家に書面を送付した上で電話にて説明をすることなどが必要)であるため、需要家が承諾した場合には、契約締結前交付書面を交付することを要しない(施行規則第3条の12第
6項第1号)。
ただし、その場合であっても、電話での説明を行った後遅滞なく当該需要家に契約締結前交付書面を交付しなければならない(施行規則第3条の12第7項)。これは、後述の2(2)イⅱ)に掲げる場合とは異なり、小売電気事業者が需要家に対し説明する内容は説明義務を課されている全ての事項であって多岐に亘ることに配慮されたものである。
ⅱ) 契約の更新及び契約の軽微な変更の場合
小売電気事業者又は取次業者が、既に締結されている小売供給契約を更新する場合(料金ほか契約条件について一切の変更をせずに当該小売供給契約の期間の延長のみをする場合)及び既に締結されている契約を変更しようとする場合(軽微な変更をする場合に限る。「軽微な変更」の具体例については、前述の1(3)イⅲ)を参照。)については、小売電気事業者等は、当該小売供給契約の内容のうち変更があるのは契約期間に関するもの又は軽微な変更に関するものに限られるため、契約締結前交付書面を交付することなく供給条件の説明を行うことについて需要家が承諾した場合には、契約締結前交付書面を交付することを要しない(施行規則第3条の12第6項第2号及び第3号)。
ウ 契約締結前交付書面に代わる情報通信技術を利用する方法
ITを活用したビジネスが活発に行われている我が国の現状を踏まえると、小売電気事業においても、ITを活用した営業活動が行われる可能性が極めて高い。
このため、小売電気事業者等が、小売供給を受けようとする者の承諾を得た上で、以下に記載する情報通信の技術を利用する方法(以下「電磁的方法」という。)を用いて、契約締結前交付書面に記載すべき事項を提供した場合には、契約締結前交付書面を交付したものとみなされる(電気事業法第2条の13第3項)。
ⅰ) 需要家の承諾を得る方法
需要家の承諾を得る方法については、あらかじめ、需要家に対し、小売電気事業者等が用いる電磁的方法の種類(後述の2(2)ウⅱ)参照)及び内容(ファイルへの記録の方式)を示し、需要家から書面又は電磁的方法による承諾を得ることが必要となる(電気事業法施行令(昭和46年政令第206号)第2条第1項並びに施行規則第3条の14及び第3条の15)。また、このような承諾を得た場合であっても、その後に需要家から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、契約締結前交付書面に代わる電磁的方法による提供をしてはならない(電気事業法施行令第2条第2項)。
ⅱ) 具体的な提供方法
需要家の承諾を得た上で契約締結前交付書面に代えて電磁的方法を用いる場合の具体的方法は以下のとおりである(施行規則第3条の12第12項)。
① 電子メールによる場合
小売電気事業者等が、本来契約締結前交付書面に記載すべき内容について、需要家に対し電子メールにより送信する方法(当該需要家が手元で当該電子メールの内容を出力することにより書面を作成することができる方法であることを要する。)によることが認められている(施行規則第3条の12第12項第1号)。
② ホームページ等での閲覧による場合
小売電気事業者等が、インターネット上の自己のホームページ等に本来契約締結前交付書面に記載すべき内容を表示し、これを需要家の閲覧に供する方法によることが認められている(施行規則第3条の12第12項第2号)。なお、需要家が当該説明事項を読むことなく、次のリンク先のウェブページに進んでしまうことなどがないよう、画面をスクロールすることにより、説明事項を一通り読んだ上で次のリンク先のウェブページに進むこととなるよう、リンク先の表示のための文字列を当該ウェブページの最後に表示する、説明内容を理解した旨のチェック項目を設けるなどの工夫をすることが望ましい。
また、需要家が当該説明事項を出力することにより書面を作成することができない場合には、小売電気事業者等は、当該ホームページ等に表示した説明事項について3ヶ月間は消去・改変できないようにしなければならない。
③ 記録媒体による場合
小売電気事業者等が、本来契約締結前交付書面に記載すべき内容について、フロッピーディスクやCD-ROMなどの記録媒体に記録して交付する方法によることが認められている(施行規則第3条の12第12項第3号)。
④ 電磁的方法を利用した説明後の書面交付努力義務
小売電気事業者等は、前述の2(2)ウⅱ)①から③に掲げる方法により説明事項を需要家に対し提供した場合であっても、需要家から書面で交付して欲しい旨の要請があった場合には、需要家の説明内容に対する理解を促すためにも、当該需要家に対し、契約締結前交付書面を交付するよう努める必要がある(施行規則第3条の12第13項)。
3 契約締結後の書面交付義務
(1) 契約締結後の書面交付義務の意義
供給条件の説明義務・契約締結前の書面交付義務と同様に、トラブルの発生を未然に防止し、需要家の利益を保護する観点から、小売電気事業者等は、小売供給を受けようとする者との間で小売供給に関する契約を締結した場合、その小売供給を受けようとする者に対して、以下に述べるとおり一定の事項を記載した契約締結後交付書面を交付しなければならない(電気事業法第2条の14第1項)。なお、媒介業者については、契約の締結を行う主体ではないため、「契約を締結したとき」ではなく「媒介により契約が成立したとき」に、契約締結後交付書面を交付することが必要となる。
小売電気事業者等が契約締結後の書面交付義務に違反したときで、電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあると認められるときは、当該小売電気事業者に対して業務改善命令等が発動され得る(電気事業法第2条の17第1項)。また、①小売電気事業者等が、電気事業法第2条の14第1項の規定に違反して契約締結後交付書面を需要家に交付しない場合や同書面に虚偽の記載・表示をした場合には、30万円以下の罰金の対象となり得(電気事業法第120条第2号)、②小売電気事業者が上記の経済産業大臣の命令に違反した場合には、300万円以下の罰金の対象となり得る(電気事業法第118条第1号)。また、小売電気事業者が経済産業大臣の業務改善命令に違反した場合において、公共の利益を阻害すると認められるときは、登録の取消事由となる(電気事業法第2条の
9第1項第1号)。
(2) 遵守すべきルール
ア 契約締結後交付書面において記載が必要な事項及び記載の方法
契約締結後交付書面において記載が必要な事項は下記のとおりである(電気事業法第2条の14第1項及び施行規則第3条の13第2項)(なお、下記の事項を記載するに際しては、文字の大きさを工夫するなど、読みやすく記載することが望ましい。)。
ⅰ) 原則
・小売電気事業者等の氏名又は名称及び住所
・契約年月日
・小売電気事業者の登録番号
・媒介・取次・代理業者が当該小売供給契約の締結の媒介等を行う場合にあっては、その旨
・小売供給契約を締結しようとする際に説明すべきとされる施行規則第3条の12第1項第3号から第25号までに掲げる事項(ただし、第5号の「当該小売供給契約の申込みの方法」については契約締結時には不要であることから対象外。)
・停電時の復旧対応を迅速に行うためなどに必要な一般送配電事業者から各需要家に対し割り振られる供給地点特定番号
ⅱ) 契約締結後交付書面の記載事項の一部省略が認められる場合
① 契約の更新の場合小売電気事業者又は取次業者が、既に締結している小売供給契約を更新した場合(料金ほか契約条件について一切の変更をせずに当該小売供給契約の期間の延長のみをする場合)には、契約締結後交付書面の内容については、小売電気事業者の氏名又は名称及び住所並びに契約年月日のほかには、更新後の新たな契約期間(施行規則第3条の12第1項第16号)及び供給地点特定番号のみでよい(施行規則第
3条の13第3項)。ただし、需要家がそのことについて承諾していない場合には、
このような記載事項の一部省略は認められない(施行規則第3条の13第3項ただし書)。
② 軽微な変更以外の契約の変更の場合
小売供給事業者又は取次業者が、既に締結している小売供給契約を変更した場合(施行規則第3条の13第1項の軽微な変更をした場合であって、契約締結後交付書面を交付しないことについて需要家の承諾を得ている場合を除く。)には、契約締結後交付書面の内容については、小売電気事業者の氏名又は名称及び住所並びに契約年月日のほかには、変更した事項及び供給地点特定番号のみでよい(施行規則第3条の13第4項)。例えば、これまで小売電気事業者自らのコールセンターが需要家からの問合せ等に応じていたが、これを外部委託することになったため、連絡先が変わった場合には、小売電気事業者の氏名又は名称及び住所並びに契約年月日に加えて、変更後の連絡先及び供給地点特定番号のみを契約締結後交付書面に記載すればよい。ただし、需要家がそのことについて承諾しない場合には、このような記載事項の一部省略は認められない(施行規則第3条の13第4項ただし書)。
イ 契約締結後の書面交付義務の例外的場合
小売電気事業者又は取次業者が、既に締結されている小売供給契約についてその内容を変更しようとする場合(軽微な変更をする場合に限る。「軽微な変更」の具体例については前述の1(3)イⅲ)参照。)については、小売電気事業者等は、需要家が承諾した場合には契約締結後交付書面を交付することを要しない。
ウ 契約締結後交付書面に代わる情報通信技術を利用する方法
契約締結前の書面交付義務と同様の理由により、小売電気事業者等が、小売供給を受けようとする者の承諾を得た上で、以下に記載する情報通信の技術を利用する方法を用いて、契約締結後交付書面に記載すべき事項を提供した場合には、契約締結後交付書面を交付したものとみなされる(電気事業法第2条の14第2項)。
ⅰ) 需要家の承諾を得る方法
契約締結前交付書面の場合と同様である(前述の2(2)ウⅰ)参照。電気事業法施行令第2条第3項。)。
ⅱ) 具体的な提供方法
需要家の承諾を得た上で契約締結後交付書面に代えて電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法を用いる場合、その具体的方法は契約締結前交付書面の場合と同様である(施行規則第3条の13第5項。前述の2
(2)ウⅱ)参照。)。